目次
1 どういう場合に残業代が発生するの?
労働契約で定められた所定労働時間を超えて働いた場合、超えた時間に応じた残業代が発生します。
また、労働基準法に定められた条件に該当する場合には、割増賃金が発生します。
労働基準法に定められた条件と割増率は以下のとおりです。
①原則1日8時間又は週40時間を超える労働・・・割増率25%
②大企業の場合、①のうち月60時間を超える労働・・・割増率50%
※令和5年4月1日から中小企業にも適用されます。
③週1回の休日における休日労働・・・割増率35%
④午後22時から午前5時までの深夜労働・・・割増率25%
※④は、①~③と重なって適用されます。(例)休日深夜労働 割増率60%
2 残業代請求の時効は?
⑴ 残業代請求の時効は2~3年
令和2年4月に民法の改正が施行されて残業代請求の時効が2年から3年になりました。令和2年3月までに発生した残業代の時効は2年、令和3年4月以降に発生した残業代の時効は3年となっています。
会社を辞めた後でも、2~3年前の残業代を遡って会社に請求することができます。
残業代請求権は、時効で月々消えていってしまいます。例えば、令和3年8月の給料日を過ぎると、2年前の令和元年8月の給料日に発生していた残業代請求権は時効により消滅します。
⑵ 時効を止めるためには
ア 催告による時効停止
残業代請求の時効は、残業代を会社に請求することで6か月間停止します(これを催告といいます。)。催告から6か月が経過すると、催告による時効の停止は無かったことになってしまいます。催告をもう一度繰り返すことはできません。6か月を超えて時効を止めるためには、催告から6か月以内に後述する訴訟等の法的手続きをとる必要があります。
イ 訴訟等による時効中断
残業代請求の時効は、訴訟等の法的手続きをとることで手続き中完全にその進行を中断することができます。たとえ訴訟に2年かかったとしても、その間残業代請求の時効は完成しません。
3 会社から残業代は出ないと言われたけど本当?
会社から「あなたは法律上残業代が出ません。」と言われることがありますが、法律上残業代が発生しないための要件は厳しく、会社の主張は誤っていることが多いです。
誤りの多い会社の主張には、以下のものがあります。
⑴ 固定残業代
会社から「基本給の一部にあらかじめ残業代が組み込まれている。」「残業代をあらかじめ『役職手当』として支払っている。」などとして、それ以上の残業代は発生しないと主張されることがあります。
実際に残業したか否かに関わらず支払われる残業代を、固定残業代といいます。固定残業代が残業代として有効である場合、実際に残業をしても固定残業代の分は残業代が支払われていることになります。
しかし、「基本給の一部に残業代が組み込まれている。」という「組込型」の固定残業代の場合、基本給のうちのいくらが通常の賃金でいくらが固定残業代なのかが区別できなければ、残業代として有効とはいえませんし、「残業代を『○○手当』として支払っている。」という「手当型」の固定残業代の場合、雇用契約書等の記載だけでなく、実際の残業時間と整合しているかなどの実態も考慮して、その手当が残業代としての実質を備えているといえなければ、残業代として有効とはいえません。
また、固定残業代はあくまで残業代の一部として支払われるものなので、固定残業代が有効であったとしても、実際の残業時間で計算した残業代が、固定残業代の額を超える場合には、会社はその差額の残業代を追加で支払わなければなりません。
固定残業代だから残業代は発生しないと言われても、諦めずに労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。
⑵ 管理監督者
会社から「あなたは管理職だから残業代は出ない。」と言われることがあります。
労働者が労働基準法41条の管理監督者に当たる場合には、労基法の労働時間規制が一部適用除外になるため、原則として残業代は発生しません。
しかし、労基法上の管理監督者に当たるかは、①会社経営や労務管理等の重要な権限を有していたか、②自身の労働時間について自由な裁量を有していたか、③残業代が支払われないことに見合った高待遇を受けているか、を判断要素として非常に厳しく判断されます。
一般的に「部長」「課長」「店長」などの肩書があっても、労基法上の管理監督者に当たる労働者はほとんどいないでしょう。
また、労基法上の管理監督者に当たる場合でも、深夜割増は適用されるので、午後22時から午前5時までに労働すれば残業代が発生します。
管理監督者だから残業代は発生しないと言われても、諦めずに労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。
⑶ 裁量労働制
会社から「裁量労働制だから残業代は出ない。」と言われることがあります。
裁量労働制とは、裁量性の高い労働に従事している労働者について、実労働時間ではなく、あらかじめ定められた一定時間働いたものとみなす制度です。裁量労働制には、新商品や新技術の研究開発、情報処理システムの分析・設計、放送番組作成のための取材・編集、衣装・広告等の新デザインの提案等の専門性や創造性が高いとされる業務を対象とする専門職型裁量労働制(労基法38条の3)と、事業運営に関する企画・立案・調査及び分析の業務を対象とする企画業務型裁量労働制(労基法38条の4)があります。
しかし、裁量労働制は上記のように対象とすることができる業務が法律上限定されているほか、法律上厳しい要件が定められています。また、導入の手続きも、専門職型裁量労働制の導入には労使協定の締結及び届出が、企画業務型裁量労働制の導入には労使委員会の5分の4以上の多数による決議及び届出、並びに対象労働者本人の個別同意が必要になります。
このように、裁量労働制は法律上の厳しい要件を全て満たしていなければ無効であり、会社が法律上の要件を満たさずに裁量労働制を運用していることも多くみられます。
裁量労働制だから残業代は発生しないと言われても、諦めずに労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。
4 労働問題に詳しい弁護士は何ができるの?
⑴ 労働時間の立証
残業代請求をするためには、請求する労働者の側が、実際の労働時間を立証する必要があります。タイムカードに残業時間が打刻されているような事案であれば労働時間の立証は容易ですが、タイムカードがない、又はタイムカード上は残業がないかのように打刻してしまっている場合、労働時間の立証は容易ではありません。
しかし、このような場合でも、業務用メールの送信時間、パソコンのログオン・ログオフの時間、会社のドアセキュリティの通過時間、交通系ICカードの改札通過記録など、様々な証拠を組み合わせることで、労働時間を立証することができます。
労働問題に詳しい弁護士は、豊富な経験から、事案に応じた適切な証拠を見つけることができます。
⑵ 証拠の収集
タイムカード等による労働時間管理がされていても、タイムカード等が労働者の手元にないと証拠として使用することができません。
そのような場合でも、弁護士は、会社にタイムカード等の資料開示を請求して、証拠を集めることができます。会社が任意に資料を開示しない場合には、裁判所を使った証拠保全手続きや、訴訟上の文書提出命令によって証拠を収集することもできます。
手元に証拠がないからといって諦めず、労働問題に詳しい弁護士にご相談ください。
⑶ 請求できるもの
ア 残業代
所定労働時間を超えた労働等について、法定の割増賃金を含む残業代を請求することができます。
イ 付加金
会社が法定の割増賃金を支払っていない場合、裁判所は、会社に対して、割増賃金を含む未払残業代に加えて、ペナルティとして割増賃金と同額の支払いを命じることができます。これを付加金といいます。付加金は訴訟における判決でなければ命じることができず、付加金の支払いを命じるかどうかは、会社の悪質性を考慮して裁判所が決めます。
ウ 遅延損害金
残業代が発生してから支払われるまでの遅延損害金も請求することができます。
令和2年4月に民法の改正が施行されて残業代の遅延損害金が年6%(会社の場合)から年3%に変更されました。令和2年3月以前に発生した残業代の遅延損害金は年6%(会社の場合)、令和2年4月以降に発生した残業代の遅延損害金は年3%です。
⑷ 採り得る手段
労働事件では、交渉や訴訟の他にも採り得る手続きが多くあります。各手続きにはそれぞれメリット・デメリットがあるので、どの手続きを選択するのかがとても重要になります。
残業代請求の場合、どの手続きを選択するかは、求める解決水準と時間的・金銭的コストの兼ね合いで決めることになります。一般的に、①訴訟、②労働審判、③交渉の順番で解決水準は高いですが、時間的・金銭的コストも高い傾向にあります。
労働時間の客観的証拠が残っていて、付加金や遅延損害金も含めたなるべく多くの金額を回収したいという場合には、訴訟を選択することになります。
もっとも、例外的な場合を除いてまずは交渉から行うことが一般的です。弁護士は、まず会社に残業代請求の通知書を送って時効を止めて、時効が止まっている6か月間の間に会社と交渉を行います。このとき、同時に会社に対してタイムカード等の資料開示を求めます。こうすることで、会社に対して最大限の請求をすることができます。交渉により十分な解決を得られない場合には、事案に応じて労働審判や訴訟に進むことになります。
労働問題に詳しい弁護士は、依頼者から希望を聴き取り、事案に応じた適切な手続きを提案します。