目次
1 労働事件は手続き選択が重要です
⑴ はじめに
法的紛争が生じたとき、それを解決するためには、まずは相手と交渉をして、交渉で解決できない場合には訴訟をすることが一般的です。
労働事件の場合、交渉や訴訟の他にも、訴訟より簡易な手続きの労働審判を利用することができます。東京の場合、簡易裁判所の労働専門調停を利用することも考えられます。
また、裁判所ではなく、都道府県労働局のあっせんや、労働基準監督署に対する労災申請など、行政機関の手続きを利用することもあります。
事案によっては、個人で争うよりも労働組合に加入して団体交渉により解決を図ることが適切な場合もあるでしょう。
各手続きには、それぞれメリット・デメリットがあるので、どの手続きを選択するのかがとても重要になります。労働問題に詳しい弁護士は、豊富な選択肢の中から事案に合った手続きを提案することができます。
代表的な手続きについて、それぞれのメリット・デメリットを簡単にご説明します。
⑵ 交渉
代理人を通じて相手と話合いによる解決を目指します。
メリット
・裁判費用がかかりません。
・比較的短期間での解決が可能です。
・証拠が乏しい場合でも話合いにより一定の解決ができることがあります。
デメリット
・あくまで任意の話合いなので相手が交渉を拒否すれば進めることができません。
・話合いによる解決のためには双方譲り合うことが必要になります。裁判所を使った手続きに比べて解決水準は低くなる傾向にあります。
⑶ 訴訟
法廷で裁判官の判決を求める手続きです。一般的に「裁判」と呼ばれるのがこの訴訟手続きです。
メリット
・相手が事実を争っていても、勝訴判決を得れば請求が全て認められる可能性があり、相手に強制執行することもできます。
・訴訟の途中で相手と和解する場合でも、交渉や労働審判に比べて解決水準が高くなる傾向にあります。
デメリット
・裁判費用がかかります。
・解決までに長い時間を要します。判決までは1年以上かかることが多く、事案によって2年以上かかることもあります。
・原則として請求をする側が証拠により事実を立証をする必要があります。十分な証拠がないと敗訴してしまう可能性が高くなります。
⑷ 労働審判
訴訟と同様裁判所を使った手続きです。原則として3回以内の期日で、話合いによる解決を目指す簡易な手続きです。
メリット
・訴訟に比べて裁判費用を抑えることができます。
・原則として3回以内の期日で終了するので、訴訟と比べて短期間での解決が可能です。申立てから2~4か月で終了することが多いです。
・裁判官を中心とした審判委員会が双方の言い分を聞いたうえで相手を説得してくれるので、話合いが成立する可能性が高くなります。
デメリット
・あくまで話合いによる解決を図る手続きなので、話合いが成立しないと手続きが終了します。話合いが成立しない場合には審判委員会が審判を出しますが、一方当事者が審判に異議を唱えると当然に訴訟に移行します。
・原則として3回以内の期日で行う簡易な手続きなので、複雑な事案には適していません。
・解決水準は訴訟に比べると低くなる傾向にあります。
⑸ 労働専門調停
東京簡易裁判所では、労働事件に精通した弁護士や社会保険労務士が調停委員を務める労働専門調停があります。
メリット
・訴訟に比べて裁判費用を抑えることができます。
・訴訟では認められない、事実確認や謝罪を求める申立ても可能です。
デメリット
・あくまで話合いによる解決を図る手続きなので、話合いが成立する見込みがない場合には手続きが終了します。
・解決水準は訴訟に比べると低くなる傾向にあります。
⑹ 仮処分
訴訟をする時間的余裕のない場合に、裁判所に仮の決定を求める手続きです。解雇されて当面の生活費もないような場合に行う賃金仮払いの仮処分が代表的です。
メリット
・短期間で決定を得ることができます。
・仮処分手続きの中で高水準の和解が成立することもあります。
デメリット
・賃金仮払いの仮処分が認められるためには、預金残高がないことなど賃金仮払いの必要性を立証する必要があります。
・あくまで仮の決定なので、訴訟で敗訴した場合には仮払いされた賃金を全額返還する必要があります。
⑺ 都道府県労働局のあっせん
裁判所ではなく、都道府県労働局に申し立てる手続きです。あっせん委員に間に入ってもらって話合いによる解決を目指します。
メリット
・手続き費用がかかりません。
・弁護士を付けずに行うことも十分可能な手続きです。
デメリット
・あくまで話合いによる解決を図る手続きなので、相手が欠席したり話合いが成立しない場合には手続きが終了します。
・弁護士に依頼する場合に比べて解決水準は低い傾向にあります。
⑻ 労災申請
労働災害が疑われる場合に、労働基準監督署に労災保険給付を求める手続きです。
メリット
・労災認定がされれば、生活保障のための休業補償給付や治療費相当額の療養補償給付など、種々の給付を受けることができます。
・労働基準監督署の労災認定を受けることで、使用者に対する請求も有利に進められる場合があります。
デメリット
・労働基準監督署の判断は、労災認定基準に適合するか否かの形式的な判断になりがちです。
・一度労災不支給決定が出てしまうと、使用者に対する請求にも悪影響が出る場合があり、労災申請を行うかは慎重に判断する必要があります。
⑼ 団体交渉
労働組合に加入して、使用者に団体交渉を求めます。職場に労働組合がない場合でも、一人で加入できる職場外組合に加入することができます。
メリット
・弁護士費用や裁判費用がかかりません。
・使用者には団体交渉に誠実に応じる法律上の義務があります。
・事実確認や資料の請求など、幅広い交渉が可能です。
・交渉や裁判と並行して行うことで、交渉や裁判を有利に進められる場合があります。
デメリット
・あくまで交渉を求める手続きなので、支払い等を強制することはできません。
・職場内組合がない、又は職場内組合があっても頼りにならない場合、自分で職場外組合を探す必要があります。労働問題に詳しい弁護士は、労働組合との付き合いがあるので、信頼できる労働組合を紹介することもできます。
2 労働事件は専門性が高い分野です
労働事件は、前述したように手続きが多岐にわたり、手続き毎に作法も異なります。それぞれの手続きのメリットを活かすには、手続きの作法に従った適切な事件処理をする必要があります。
また、労働法分野は、法改正が頻繁に行われ、裁判例も日々積み重なっており、とても変化の激しい分野です。
労働問題に詳しい弁護士は、手続き毎の作法や労働法分野の法改正、裁判例を理解し、適切なアドバイスや事件処理を行うことができます。
3 労働問題に詳しい弁護士は事実を大切にします
例えば、相手に借金の返済を求める訴訟では、ある日時に相手にお金を貸したという一時点の事実を立証すればよく、契約書や借用書があれば必要な事実を立証することができます。
一方、解雇の有効性が問題となる解雇訴訟では、労働者が入社してから解雇されるまでの間に、解雇理由となるような事実があったのか、複数の時点の事実が争点となります。労働者の能力不足を理由とする解雇の場合、労働者が入社以降どのような仕事をしてきたのか、使用者が労働者に対してどのような注意・指導をしてきたのかなど、雇用期間の労働者と使用者の全ての言動が争点となり得、事実関係が複雑になります。
もっとも、実際に雇用期間のあらゆる出来事を主張立証する必要があるわけではなく、またすべきでもありません。
解雇事件を含む労働事件には、裁判例上重視されてきた重要な事実と、結論に影響を与えない事実があります。結論に影響を与えない背景事情を大量に主張することは、いたずらに紛争を長期化させるばかりでなく、裁判官が重要な事実を見落とす原因にもなってしまい訴訟に悪影響を及ぼします。弁護士が付いていれば勝てるはずの訴訟で本人が負けてしまうのは、ほとんどがこのパターンだと推測されます。
労働問題に詳しい弁護士は、複雑な事実関係を丁寧に聴き取り、重要な事実のみを抽出して過不足のない主張立証を行うことができます。
4 まとめ
・労働問題に詳しい弁護士は、豊富な選択肢の中から事案に合った手続きを提案することができます。
・労働問題に詳しい弁護士は、手続き毎の作法や労働法分野の法改正、裁判例を理解し、適切なアドバイスや事件処理を行うことができます。
・労働問題に詳しい弁護士は、複雑な事実関係を丁寧に聴き取り、重要な事実のみを抽出して過不足のない主張立証を行うことができます。
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