Case67 溶接作業員の石綿ばく露につき使用者の安全配慮義務違反が認められた事案・日立パワーソリューションズ事件・横浜地横須賀支判令3.8.30労判1255.39

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社に入社した昭和36年9月から少なくとも昭和54年12月頃まで、電気溶接作業の際に狭い場所に入り込んで作業することがあり、部品の予熱や保温のために保温材として布状の石綿(アスベスト)を使用し、溶接の際に発する火花から身を守るために石綿の含まれた防護服を着ることもあり、これらの石綿含有製品から石綿粉じんが舞い上がることがありました。

 被告会社では、原告が入社した10年以上後に一般的なマスクが支給されるようになったにとどまり、昭和60年代になって石綿対策用のマスクの着用が徹底されるようになりました。

 原告労働者は、平成11年3月に被告会社を退職しましたが、平成28年に胸膜中皮腫にり患していることが判明し、労災認定を受けました。

 本件は、原告労働者が、被告会社の安全配慮義務違反により石綿粉じんにばく露し中皮腫にり患したとして、被告会社に慰謝料の支払を求めた事案です。

(判決の要旨)

 判決は、日本において、少なくとも昭和35年頃には、石綿が石綿肺などの危険性を有するとの知見は確立していたと評価できることから、被告会社は、昭和35年には、石綿を含む粉じんが人の生命、身体に重大な障害を与える危険性があること、および被告会社の溶接作業に従事する者が石綿粉じんにばく露して、生命、身体に重大な障害が生じる可能性があることを十分に認識でき、また認識すべきであったとし、被告会社には、昭和35年以降、被告会社の溶接作業に従事する者が石綿粉じんを吸入しないようにするための措置を講じるべき安全配慮義務があったとし、安全配慮義務の具体的内容として、①局所排気措置によって石綿粉じんを適切に排気し、労働者がこれを吸い込まないようにする義務、②適切な呼吸用保護具を使用させ、労働者を石綿粉じんから守る義務、③労働者に安全教育を行い、石綿粉じんから適切に身を守れるよう指導する義務を挙げました。

 そして、被告会社のこれらの安全配慮義務違反を認め、2200万円の慰謝料を認めました。

※確定

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