Case496 歯科医師である原告に予約が入りにくくした行為などが違法なマタハラに当たるとして、慰謝料や不就労期間の賃金請求を認めた事案・医療法人社団Bテラスほか事件・東京高判令5.10.25労判1303.39

(事案の概要)

 被告法人が運営する歯科医院で歯科医師として勤務していた原告労働者(女性)は、令和2年9月18日、妊娠した旨を被告院長(理事長)に報告し、翌日から同年10月31日まで体調不良で休職し(1日だけ出勤)、同年11月1日から復帰しました。

 被告院長は、原告の診療予定表に入力されていた患者の診療予定時間を90分から120分に独断で延長したり、原告の診療予定欄に自分の診療予定を入力したりして、原告に診療予約が入りにくくしました。

 また、被告院長は、原告がいない休憩の場で他の従業員らと雑談する中で、原告について「なんか家にお金がないんじゃない。育ちが悪い。お金のない家だよね。この人貧しいのと思った。」などと述べました(本件発言)。原告は、ボイスレコーダーを仕掛けて会話を録音していました。

 その後、原告は産休・育休に入り、令和4年5月14日から労務提供の意思があることを法人に伝えましたが、安全配慮義務違反があることを理由に労務を提供しませんでした。

 本件は、原告が法人及び被告院長に対して損害賠償請求するとともに、安全配慮義務違反により就労できない期間の賃金を請求した事案です。

(判決の要旨)

1 損害賠償請求

 判決は、①事業主は、その雇用する女性労働者の妊娠、出産等を理由として、解雇その他の不利益な取扱いをしてはならず(均等法9条3項)、職場における妊娠、出産等に関する言動により、雇用する女性労働者の就業環境が害されることのないよう、相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講ずるべき義務を負うこと(均等法11条の3第1項)、➁「事業主が職場における妊娠、出産等に関する言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」が上記の妊娠、出産等の事由に関する言動によって当該労働者の就業環境が害されることをもって「職場における妊娠、出産等に関するハラスメント」としていること、③事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、上記同様の措置を講じなければならないこと(労働施策総合推進法30条の2第1項)を指摘したうえ、これらの規定を踏まえつつ不法行為の成否を検討するとしました。

 そして、原告に診療予約が入りにくくした行為は、業務上の必要性のないもので、原告に対する不法行為に当たるとしました。

 また、本件発言について、これらの会話は、元々原告が耳にすることを予定していないものであるが、院長としての地位・立場を考慮すると、他の従業員と一緒になって原告を揶揄する会話に興じることは、客観的にみて、それ自体が原告の就業環境を害する行為に当たるとし、不法行為の成立を認めました。

 以上より、被告らに対して慰謝料20万円の支払いを命じました。

2 賃金請求

 判決は、令和5年5月1日に被告院長が理事長を辞任してから相当期間が経過した同月15日までは、法人の責めに帰すべき事由(安全配慮義務違反)により原告が労務を提供できなかったとして、その期間の賃金請求を認めました。

※確定

Follow me!