雇用契約書・労働条件通知書の意味(雇用契約書等が示されなかったら)
目次
1 はじめに
会社と労働者が労働契約を締結する際、雇用契約書や労働条件通知書などの書面で労働契約の内容を確認することが一般的です。
しかし、中には、雇用契約書や労働条件通知書などの書面で労働条件が示されないまま働き始めてしまうことで、後々会社とトラブルになってしまう事案も多くあります。
この記事では、雇用契約書や労働条件通知書とは何か、これらの書面の作成は法律上の義務なのか、これらの書面がないと労働者はどのような不利益を受けてしまうのかについて解説します。
2 雇用契約書
⑴ 雇用契約書の作成は義務ではない
雇用契約書とは、文字通り労働契約(雇用契約)を締結する際に交わす契約書面のことです。会社と労働者が労働契約を締結する際には、雇用契約書を交わすことが一般的です。
もっとも、雇用契約書の作成は法律上の義務ではありません。
労働契約法第6条は、労働契約は使用者と労働者が、①労働者が使用者の指揮命令の下で労働すること、②使用者がこれに対して賃金を支払うこと、を合意すれば成立するとしています。この合意は書面による必要はなく、口頭でも労働契約は成立します。
⑵ 雇用契約書の意味
ア 証拠としての意味
労働契約は口頭でも成立しますが、口頭の契約だと、後に会社が「そんな契約はしていない。」「そんな条件は言っていない。」などと主張した場合、労働者は契約の成立や契約内容を立証することができずトラブルになってしまいます。
雇用契約書には、会社との合意内容を書面で証拠にしてトラブルを防止する意味があります。
イ 労働条件明示義務を果たす意味
3で述べるように、使用者には労働契約の締結に際して、書面で一定の労働条件を明示する義務があります。会社は、雇用契約書を交わすことで、この労働条件明示義務を果たしていることが多いです。
3 労働条件明示義務
⑴ 明示しなければならない労働条件
労働基準法第15条1項及びこれを受けた労働基準法施行規則第5条は、使用者に労働契約の締結に際して、書面で一定の労働条件を明示する義務を定めています。
① 必ず明示しなければいけない労働条件
・契約期間の定め
・労働日や労働時間の定め(始業終業時刻、残業の有無、休憩時間、休日、休暇等)
・賃金の定め(計算方法、締日支払日等)
・退職に関する事項(解雇事由等)
② 有期雇用契約の場合に明示しなければならない労働条件
・契約更新の基準
③ 契約内容とする場合には明示しなければならない労働条件
・退職金の定め
・賞与等の定め
・労働者負担の食費や作業用品等の定め
・安全及び衛星に関する事項
・職業訓練に関する事項
・労災及び業務外疾病扶助に関する事項
・賞罰に関する事項
・休職に関する事項
⑵ 明示の方法
労働条件の明示は、書面で行う必要があります(労働者が希望した場合、FAXやメールも可)。労働条件を明示する書面は、「雇用契約書」や「労働条件通知書」のタイトルで交付されることが多いですが、タイトルは問いません。
なので「雇用契約書」や「労働条件通知書」というタイトルの書面が作成されなかったとしても、ただちに労基法違反にはなりません。
⑶ 罰則
使用者が、上記⑴の①及び②の労働条件を明示する書面を交付しない場合には、労基法120条1項により、30万円以下の罰金が科せられます。
4 雇用契約書等の書面が示されない場合にどうするか
⑴ 雇用契約書等がないとどうなる?
労働契約は口頭でも成立しますが、口頭の契約だと、後に会社が「そんな条件は言っていない。」などと主張した場合、労働者は契約内容を立証することができず、泣き寝入りしなければならなくなるかもしれません。
例えば、採用面接では、月給30万円、賞与年60万円で年収420万円と説明され、年収420万円であれば就職しようと思って口頭で労働契約を締結したのに、実際に働くと一切賞与が支給されなかったとします。この場合、労働者が賞与を請求しようにも、賞与年60万円の合意があった証拠がないため、会社から「そんな約束はしていない。」と言われてしまうと賞与の請求は難しくなってしまいます。
⑵ 出来れば入社を避ける
労働契約締結の際、会社から雇用契約書や労働条件通知書等の書面が一切示されなかったらどうすればよいでしょうか。
まず、一般論として、雇用契約書や労働条件通知書の交付は労務管理の基本中の基本なので、これすらしっかりしていない会社は、労務管理が全体的にいいかげんである可能性が高いです。後にトラブルが生じる可能性が高いので、できればそのような会社に入社することは避けたいところです。
⑶ なるべく早く書面の交付を求める
もし入社を検討する場合には、なるべく早く労働条件を記載した書面の交付をお願いしましょう。書面での労働条件の明示は使用者の義務なので、これを求めることは何ら失礼なことではありません。労働条件を曖昧にしたまま働き始めてしまうと、後にトラブルになる可能性が高いです。
⑷ その他の証拠を残す
雇用契約書や労働条件通知書等のしっかりした書面を交付してもらうことが難しい場合は、その他の方法で合意内容の証拠を残すことも考えられます。例えば、採用面接等を録音しておくことや、気になる労働条件についてメールで質問してその回答を保存しておくことなどが考えられます。