Case72 労働条件明示義務違反による慰謝料請求が認められた事案・日新火災海上保険事件・東京高判平12.4.19労判787.35【百選10版7】

(事案の概要)

 被告会社は、計画的な中途採用を運用基準に基づき実施することとし、「第二新卒としてやり直してみたい方。……ハンディはなし。……89年卒の方なら、89年に当社に入社した社員の現時点での給与と同等の額をお約束」等の記載のある求人広告を出しました。

 原告労働者は、当該求人を見て被告会社に応募し、具体的な給与額を示されないまま被告会社と雇用契約を締結し、入社後に自己の初任給を知りました。原告は、その1年後に、原告の初任給が、原告と同時に大学を卒業した社員(新卒同年次採用者)の格付け分布の下限による格付けで決定されていたことを知りました。

 本件は、原告が被告会社に対して、新卒同年次採用者の平均的格付けによる給与額での雇用契約が成立したとして、差額賃金や慰謝料の支払を求めた事案です。

 一審は原告の請求を棄却していました。

(判決の要旨)

 判決は、被告会社による採用の経緯が、原告をして新卒同年次採用者と同等の給与待遇を受けることができるものと信じさせかねないものであり不適切であり、原告は入社時において上記のとおり信じたと認めるべきだが、原告と被告会社との間で、新卒同年次採用者の平均的格付けによる給与を支給する旨の合意があったとは認められないとし、給与請求を棄却しました。

 もっとも、被告会社の求人にあたっての説明は、労基法15条1項の>労働条件明示義務に違反し、雇用契約締結に至る過程における信義誠実の原則に反し、不法行為が成立するとして、慰謝料100万円を認めました。

※上告

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