Case84 使用者の職場環境配慮義務違反を認めた事案・福岡セクシュアル・ハラスメント事件・福岡地判平4.4.16労判607.6【百選10版17】

(事案の概要)

 被告会社の編集長である被告上司は、部下である原告労働者(女性)について、社内外の関係者に対して、原告の異性関係が派手である、男性同僚と職場関係以上の関係にあるなどと原告の評判を落とすような発言をしたり、被告会社の専務に対して、取引先から広告依頼が絶えたのは原告を取引先の支店長との不倫関係が終了したからだと報告したりするなど、約2年間嫌がらせをしました。

 また、被告上司は、原告に対して、原告の交友関係等に対する評価が会社の運営に支障を生じさせるとして、原告に退職を求めました。

 被告会社は、原告と被告上司の軋轢について、専務が双方と話し合い、場合によってはいずれかに退職してもらうしかないとの結論に至り、専務は原告と面談しました。専務との面談で、原告が被告上司の謝罪要求を求めると、専務は話合いがまとまらないなら退職してもらうことになると述べたため、原告は退職の意思を示しました。

 本件は、原告が不法行為に基づき被告上司及び被告会社に対して慰謝料等の支払を求めた事案です。

(判決の要旨)

 判決は、被告上司の行為は、原告の人格を損なってその感情を害し、原告にとって働きやすい職場環境のなかで働く利益を害するものであるから、被告上司は原告に対して不法行為責任を負うとしました。また、判決は、被告会社も、被告上司の行為について使用者責任を負うとしました。

 さらに、判決は、「使用者は、被用者との関係において社会通念上伴う義務として、被用者が労務に服する過程で生命及び健康を害しないよう職場環境等につき配慮すべき注意義務を負うが、そのほかにも、労務遂行に関連して被用者の人格的尊厳を侵しその労務提供に重大な支障を来す事由が発生することを防ぎ、又はこれに適切に対処して、職場が被用者にとって働きやすい環境を保つよう配慮する注意義務もある」としたうえ、専務らの行為につき、「早期に事実関係を確認する等して問題の性質に見合った他の適切な職場環境調整の方途を探り、いずれかの退職という最悪の事態の発生を極力回避する方向で努力することに十分でないところがあった」「原告の退職をもってよしとし、これによって問題の解決を図る心情を持ってことの処理に臨んだものと推察されてもやむを得ない」などとし、職場環境を調整するよう配慮する義務を怠り、主として女性である原告の譲歩、犠牲において職場関係を調整しようとした点において不法行為性が認められるとし、被告会社はこの点においても使用者責任を負うとし、慰謝料合計150万円を認めました。

※確定

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