Case205 定年退職した労働者を労働組合の代表者とする団体交渉申入れについて会社に応じる義務があるとした事案・ 函館バス(仮処分)事件・函館地決令4.4.1労判1269.32
(事案の概要)
労働組合が、会社に対して、団体交渉を求める地位にあることの確認を求めた仮処分事件です。
組合は、会社に対して、組合員Aを執行委員長とする団体交渉の申し入れをしたところ、会社は、当該申入れがAの定年退職後になされたものであり、組合を代表する者による申入れとは認められないとして、団体交渉を拒否しました。
組合の規約には、会社が一方的に解雇した組合員は、その解雇を組合が大会で承認するまでは、組合員資格を継続する旨の規定(本件組合規定)があり、Aは、定年退職日以降も、会社の継続雇用制度の下での従業員としての地位を有することを民事訴訟で争っており、組合はAの定年退職後も新しい執行委員長を選出していませんでした。
組合が北海道労働委員会に申し立てた不当労働行為救済申立事件において、労働委員会は、会社に対して、組合員の地位に疑義があることを理由に団交を拒否してはならない旨の勧告をしていました。
(判決の要旨)
判決は、本件組合規定の趣旨は、会社の一方的な行為によって従業員の地位を喪失した組合員について組合員としての権利を保障するとともに、組合の団結を維持することにあると解されるところ、本件組合規定に準じて、Aがなお組合員としての地位を失わないとする組合の解釈が、客観的にみて合理的な根拠を欠くとはいえないとし、会社は本件団交申入れに応じる義務を負うとしました。
また、そもそも労働組合から団体交渉の申入れがあった場合、それが当該労働組合からの交渉申入れと認められる限り、使用者は団体交渉義務を負うとしました。
そして、会社が労働委員会の勧告にも疑義を呈して、組合が会社と団交を行うことができない状況が約10か月を超えていること、組合員の生活維持のために必要な事項についての団交ができていないこと等から、組合に生じる著しい損害または急迫の危険を避けるため、組合が求める団交事項につき、会社に対して団交を求める地位にあることを仮に定める必要があるとし、申立てを認容しました。