Case240 法人格否認の法理により親会社に対して偽装解散した子会社の従業員に対する雇用契約上の責任を認めた事案・第一交通産業ほか(佐野第一交通)事件・大阪高判平19.10.26労判975.50【百選10版66】
(事案の概要)
本件は、解散したA社の従業員である原告労働者らが、A社の親会社である被告会社らに対して、雇用契約上の責任や不法行為責任を追及した事案です。論点は多岐に渡りますが、法人格否認の法理に絞って紹介します。
被告会社は、A社買収後、A社の新たな賃金体系導入を目指していましたが、原告労働者らが加入する原告労働組合の同意を得られなかったことなどから、組合を排除する目的でA社を解散させ、A社の事業を自身と別子会社で継続しました。
(判決の要旨)
1 法人格形骸化について
判決は、法人とは名ばかりであって子会社が親会社の営業の一部門にすぎないような場合、すなわち、株式の所有関係、役員派遣、営業財産の所有関係、専属的取引関係などを通じて親会社が子会社を支配し、両者間で業務や財産が継続的に混同され、その事業が実質上同一であると評価できる場合には、子会社の法人格は完全に形骸化しているということができ、この場合、子会社の従業員は、解散を理由として解雇の意思表示を受けたとしても、これによって労働者としての地位を失うことはなく、直接親会社に対して、継続的、包括的な雇用契約上の権利を主張することができるとしました。
もっとも、本件では法人格が完全に形骸化しているとはいえないとしました。
2 法人格濫用について
判決は、親会社が、子会社の法人格を意のままに道具として実質的・現実的に支配し(支配の要件)、その支配力を利用することによって、子会社に存する労働組合を壊滅させる等の違法、不当な目的を達するため(目的の要件)、その手段として子会社を解散したなど、法人格が違法に濫用されその濫用の程度が顕著かつ明白であると認められる場合には、子会社の従業員は、直接親会社に対して、雇用契約上の権利を主張することができるとしました。
もっとも、子会社の解散決議が会社事業の存続を真に断念した結果なされた真実解散である場合には、その解散決議は有効であると言わざるを得ず、子会社の従業員は親会社に不法行為責任を追及できるのみであるとしました。
これに対し、子会社の解散決議が偽装解散であると認められる場合、すなわち、子会社の解散決議後、親会社が自ら同一の事業を再開継続したり、親会社の支配する別の子会社によって同一の事業が継続されているような場合には、子会社の従業員は親会社に対して雇用契約上の責任を追及することができるとしました。
そして、被告会社によるA社の実質的・現実的支配がなされている状況下において、原告組合を壊滅させる違法・不当な目的で子会社であるA社の解散決議がなされ、これが偽装解散であるとして、原告労働者らは被告会社に対して雇用契約上の責任を追及することができるとしました。
※確定