Case268 30年以上問題なく勤務してきたが酒気帯び運転で逮捕され懲戒免職処分となった高校教諭の退職金を全額不支給とすることも有効とした最高裁判例・宮城県・県教委(県立高校教諭)事件・最判令5.6.27労判1297.78

(事案の概要)

 被告宮城県の公立高校で教員をしていた原告労働者(勤続30年)は、勤務先の歓迎会で飲酒した帰りに自動車を運転し物損事故を起こし、酒気帯び運転で逮捕されました。

 県教育委員会は、原告を懲戒免職処分とし、退職手当約1725万円の全部を支給しないこととする退職手当支給制限処分をしました。

 本件は、原告が懲戒免職処分と退職手当支給制限処分の取消しを求めた事案です。

 

(判決の要旨)

控訴審判決

 控訴審は、原告の酒気帯び運転の態様が相当に悪質であるとし、原告が管理職でないもののベテラン教員として担任や教科主任を務めており職への高い信頼が求められていたことから、懲戒免職処分は社会観念上著しく妥当性を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとまでは評価できないとし、懲戒免職処分を有効としました。

 一方で、退職手当を全額不支給とした処分は裁量権の範囲を逸脱した違法な処分であるとして、3割である約517万円を支給しないこととした部分のみを取り消しました。

最高裁判決

 最高裁は、裁判所が退職手当支給制限処分の適否を審査するに当たっては、退職手当管理機関と同一立場に立って、処分をすべきであったかどうか又はどの程度支給しないこととすべきであったかについて判断し、その結果と実際になされた処分とを比較してその軽重を論ずべきではなく、退職手当支給制限処分が退職手当管理機関の裁量権の行使としてされたことを前提とした上で、当該処分に係る判断が社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合に違法であると判断すべきであるとしました。

 そして、原告が30年以上問題なく勤務していたことなどの本件の事情を考慮しても、県教委の判断は、社会通念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとはいえないとし、退職金の全額不支給も有効としました。

 県の裁量を広く捉えすぎており、批判の多い判決です。

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