Case388 企業秩序を現実に侵害するとまではいえないことや十分な弁明の機会が付与されず手続的に相当性を欠くものであることから業務命令違反を理由とする懲戒解雇が無効とされた事案・日本通信(懲戒解雇)事件・東京地判平24.11.30労判1069.36

(事案の概要)

 退職勧奨を拒否して自宅待機中であった原告労働者は、被告会社に呼び出され、原告が有する所内システムの管理権限を抹消するためにパスワードを教えるよう求められましたが、退職に応じないことを理由にこれを拒否しました。そうしたところ、会社は同日中に原告に対して懲戒解雇通知書を交付し、原告を懲戒解雇しました(本件懲戒解雇)。原告が退社した後、本件懲戒解雇の理由が業務命令違反である旨が電話で告げられました。

 本件は、原告が本件懲戒解雇の無効を主張して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。

 これに対して、会社は、原告ら(原告及びもう1名)が行った社内ネットワークシステムに関するアクセス管理者権限の不正付与およびその保持等により同システムの再構築等を余儀なくさえたとして、共同不法行為に基づき損害賠償請求する反訴を提起しました。

 また、会社は、本件懲戒解雇が懲戒解雇としては無効だとしても普通解雇としては有効であると主張しました。

(判決の要旨)

1 本件懲戒解雇の有効性

 判決は、懲戒解雇権は、単に労働者が雇用契約上の義務に違反したというだけでは足りず、当該非違行為が企業秩序を現実に侵害する事態が発生しているか、あるいは少なくとも、そうした事態が発生する具体的かつ現実的な危険性が認められる場合に限り発動することができるとしました。

 そして、原告の業務命令違反は会社の企業秩序を現実に侵害し、あるいはその具体的かつ現実的な危険性を有する行為であるとは認められないとしました。

 また、懲戒処分(とりわけ懲戒解雇)は刑罰に類似する制裁罰としての性格を有するものである以上、使用者は実質的な弁明が行われるよう、その機会を付与すべきものと解され、その手続きに看過し難い瑕疵が認められる場合には、当該懲戒処分は手続的に相当性に欠け、それだけでも無効原因を構成し得るとしました。

 そして、本件懲戒解雇は性急かつずさんな内容のものであり、十分な弁明の機会を与えないままに進められたものであって、手続的に相当性を欠き無効であるとしました。

2 本件懲戒解雇の通知に普通解雇の意思表示が含まれるか

 判決は、懲戒解雇の意思表示と普通解雇の意思表示は法的性質が異なるから、軽々に無効行為の転換の法理を適用し、懲戒解雇が無効である場合に普通解雇としての効力を維持することは法的に許されないとし、本件では本件懲戒解雇の通知に普通解雇の意思表示は含まれないとしました。

3 会社の請求

 原告らの行為は共同不法行為を構成するものであるものの、会社が支出した費用と原告らの行為との間には因果関係がないとして、反訴を棄却しました。

※控訴

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