Case501 教員に対する長年の仕事外しや他の職員からの隔離、賃金差別が不当労働行為等に当たるとして慰謝料600万円が認められた事案・松蔭学園事件・東京高判平5.11.12

(事案の概要)

 原告労働者は、昭和48年から被告法人が運営する本件高校で専任教諭として勤務していました。原告は、昭和49年から若手教師間で労働条件の改善等を議論する学習会をはじめ、昭和55年4月には労働組合を結成し、昭和57年から組合の執行委員長の地位にありました。

 原告は、昭和55年4月の新学期から、勤怠不良等を理由に、それまで担当していた学科の授業、クラス担任その他公務分掌の一切を外され、以後、出勤しても特に決まった仕事がなく、法人から仕事が与えられない限り、一日中机に座っている状況になりました(仕事外し)。

 原告は、昭和56年4月以降、他の教職員とのトラブルを回避する必要があるとして、それまで他の教職員と並べて配置されていた席を一人だけ離れた場所に移動させられました(職員室内隔離)。さらに、昭和57年3月には、それまで物置として使用されていた部屋の一部が「第3職員室」とされ、他の教職員とのトラブルを理由に原告の机だけが第3職員室に移動させられました(第3職員室隔離)。それ以降、原告は職員会議等への参加も認められず一日中第3職員室で過ごすようになりました。

 昭和61年8月からは、原告は自宅研修を命じられ、特に課題を与えられることなく勤務時間中は自宅にいることを強いられました。

 法人は、原告に対して昭和54年の賞与を支給せず、昭和55年以降は原告に対して諸手当、賞与を一切支給せず、昇給もせず、昭和54年度の基本給のみを支払い続けました(賃金差別)。

 本件は、原告が法人に対して本件各行為が不当労働行為に当たるとして損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、使用者は、労働契約あるいはその内容となっている就業規則によって定められた範囲内において、労働者が供給すべき労務の内容及び供給の時間・場所等を裁量により決定し、業務命令によってこれを指示することができるが、右範囲を超えて指示することはできず、これを超えて指示した場合には、その業務命令は無効であり、また、外形的には業務命令により指示できる事項であると認められる場合でも、それが主観的に不当な動機・目的で発せられあるいはその結果が労働者に対して通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を与える場合には、その業務命令は業務命令権の濫用として無効であり、かつ、そのような業務命令を発することは違法であるとしました。

 そして、仕事外しについて、教師である原告に対する業務命令権の行使として、外形的に見て相当性の範囲を逸脱しており、主観的にも学習会の中心メンバーである原告に対する嫌がらせという不当な動機・目的に基づくものであり違法であるとしました。

 また、職員室内隔離、第3職員室隔離及び自宅研修についても、組合員であることを理由とする不当労働行為であり違法であるとしました。

 さらに、賃金差別についても、原告が学習会のメンバーであることや組合員であることを理由とする差別的な目的で行われたものであり違法であるとしました。

 判決は、本件一連の措置を一体の不法行為として全体的に評価し、法人の責任の重大性から、法人に対して慰謝料600万円の支払いを命じました。

※確定

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