【解雇事件マニュアル】Q10解雇予告手当の基礎となる平均賃金の計算方法は

1 平均賃金の定義

 解雇予告手当の基礎となる平均賃金は、労基法12条に従って計算される。同条は、平均賃金を「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」と定義しており、平均賃金は原則としてこれにより計算される。具体的な計算方法は以下に述べるほか、厚労省『労基法上』174頁以下も参照されたい。

2 算定期間

⑴ 算定期間の原則

 解雇予告手当の場合、同条1項本文の「算定すべき事由の発生した日」は解雇予告日である。解雇予告をした後において、労働者の同意を得て解雇日を変更した場合であっても、「算定すべき事由の発生した日」は当初の解雇予告日である(昭39.6.12 36基収2316号)。

 もっとも、同条2項は、賃金締切日がある場合においては直前の賃金締切日から起算するとしているため、月給制の場合には解雇予告日の前日の直近の賃金締日が起算日になる。賃金毎に賃金締日が異なる場合には、それぞれ直近の賃金締日が起算日となる(昭26.12.27基収5926号)。

 なお、同条1項本文の「以前3箇月」という文言からは「算定すべき事由が発生した日」が賃金締日である場合には同日から起算すべきようにも思えるが、「算定すべき事由が発生した日」には労務の提供が完全には行われないことも多いことから、「算定すべき事由が発生した日」の前日から起算すべきものとされている(厚労省『労基法上』180頁)。つまり、毎月25日が賃金締日の会社で、6月25日に解雇予告がなされた場合、起算日は6月25日ではなく5月25日となる(昭24.7.13基収2044号)。

 3か月は90日ではなく暦日によるため、例えば5月25日が起算日である場合には2月26日から5月25日が算定期間となる(厚労省『労基法上』181頁)。なお、上記3か月の間に賃金締日が変更された場合の算定期間に関する解釈例規として昭25.12.28基収3802号がある。

 したがって、平均賃金は、原則として、解雇予告日の前日の直近の賃金締日から3か月間(3賃金締切期間)に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除して計算される。

⑵ 控除期間(3項)

 算定期間中に、以下の労基法12条3項各号のいずれかに該当する期間がある場合、その日数及びその期間中の賃金は、算定期間及び賃金の総額から控除し、残余の期間の日数と賃金額で平均賃金を計算する。

 なお、控除期間が解雇予告日以前3か月以上にわたる場合の平均賃金は、労基法12条8項に基づき、都道府県労働局長の定めるところによるとされている(労基則4条)。詳しくは厚労省『労基法上』195頁以下を参照されたい。

① 業務上の傷病による休業期間(1号)

 業務外の傷病による休業期間は控除されない(じん肺の場合の例外について、厚労省『労基法上』201頁参照。)。

② 産前産後の休業期間(2号)

 労基法65条の規定による休業期間に限る。

③ 使用者の責めに帰すべき事由による休業期間(3号)

 労基法26条の場合の休業期間である。一部休業すなわち所定労働時間の一部を休業した場合であっても、本号の休業期間として控除する(昭25.8.28基収2397号)。休業開始から終了までの間の休日も休業期間に含まれる(平22.7.15基発0715第7号)。

 使用者の責めに帰することのできない事由による休業期間については原則として控除されないが、労基法12条8項による例外的な取扱いについて厚労省『労基法上』200頁以下を参照されたい。

④ 育児・介護休業期間(4号)

 育介法上の育児休業又は介護休業を取得した期間。

 なお、育介法2条1号に規定する育児休業以外の育児休業の期間についても、労基法12条8項に基づき控除するものとされている(平3.12.20基発712号)。

⑤ 試用期間(5号)

 労基法12条3項5号の「試みの使用期間」とは、労働者の技能、人格等により、当該事業場の労働者として適格性を有するか否かを判断して、いわゆる本採用をするかどうかを決めるために、試験的に使用する期間である(厚労省『労基法上』188頁)。

 某市交通局の教習中の車掌が試用期間中の労働者に該当するとした解釈例規がある(昭23.11.25)。

 なお、試用期間中に解雇予告がされた場合には、労基法12条8項に基づき、その期間中の日数及びその期間中の賃金で平均賃金を算定するものとされている(労基則3条)。

 また、試用期間を経て本採用された後に解雇予告がされたが、労基法12条1項から3項によれば算定期間がすべて試用期間に当たる場合には、労基法12条8項に基づく昭和24年労働省告示第5号により、本採用日以降の賃金及び日数により平均賃金を算定するとした解釈例規(平2.7.4基収448号)がある。

⑶ 雇入れ後3か月に満たない場合(6項)

 雇入れ後3か月未満の労働者について解雇予告がされた場合には、雇入れ後の期間とその期間中の賃金の総額で平均賃金を算定することになる(労基法12条6項)。

 この場合でも、賃金締日があるときは、解雇予告日の前日の直近の賃金締日から起算する(昭23.4.22基収1065号)。ただし、賃金締日から起算すると一賃金算定期間に満たなくなる場合には、労基法12条8項に基づき解雇予告日から起算するものとされている(昭27.4.21基収1371号)。

 なお、新設会社に転籍した労働者につき、転籍後3か月を経過しないうちに算定事由が発生した場合に旧会社における期間を通算した3か月間につき平均賃金を算定するとした解釈例規(昭27.4.21基収1946号)がある。

 また、定年後再雇用後3か月に満たない場合の平均賃金の算定について、実態に即して定年前の期間を通算した3か月間につき平均賃金を算定するとした解釈例規(昭45.1.22基収4464号)がある。

3 支払われた賃金の総額

⑴ 原則

 労基法12条1項本文の「支払われた賃金の総額」とは、現実に支払われた賃金だけでなく、既に債権として確定している賃金をも含むと解すべきであるとされているため(厚労省『労基法上』181頁、昭23.8.11基収2934号参照)、未払賃金も含まれる。

 「支払われた賃金の総額」には、原則として労基法11条の賃金の全てが含まれる。例えば、通勤手当(昭22.12.26基発573号)、通勤定期乗車券(昭25.1.18基収130号、昭33.2.13基発90号)、年次有給休暇の賃金(昭22.11.5基発231号)及び昼食料補助等(昭26.12.27基収6126号)は、労基法11条の賃金であるため、「支払われた賃金の総額」に含まれる。これに対し、私有自動車を社用に提供する場合の維持費は労基法11条の賃金ではないため(昭28.2.10基収6212号、昭63.3.14基発150号)、「支払われた賃金の総額」に含まれない。

 年俸制の労働者の平均賃金については、賃金の年額の12分の1を1か月の賃金として算定すべきとする旨の解釈例規(平12.3.8基収78号)がある。

 平均賃金の算定期間中に賃金ベースが変更された場合、新旧ベースによって支払われた賃金の合計額が「支払われた賃金の総額」である(昭22.11.5基発233号)。賃金ベースが遡及して変更された場合、例えば、算定期間が4月26日から7月25日である場合に、8月10日に4月26日に遡って賃金ベースが改定され、同日以降分の追加額が支払われた場合、その追加額は各月に支払われたものとして「支払われた賃金の総額」に算入することとなる(昭22.11.5基発233号)が、平均賃金は算定事由発生時において労働者が現実に受け又は受けることが確定した賃金によって算定すべきものである(昭23.8.11基収2934号)から、算定事由発生後に賃金ベースが遡及して改定されても追加額は「支払われた賃金の総額」に算入しない(昭24.5.6基発513号)。上記の例では、8月20日が解雇予告日であれば追加額も算入されるが、8月5日が解雇予告日である場合には追加額は算入されない。

 労働者が複数の事業場で就労して賃金を得ている場合には、「支払われた賃金の総額」とは、算定事由の発生した事業場で支払われる賃金のみをいう(昭28.10.2基収3048号)。

⑵ 算入しない賃金(4項)

 「支払われた賃金の総額」には、労基法12条4項に定められた以下の賃金は算入しない。

① 臨時に支払われた賃金

 臨時に支払われた賃金とは、臨時的、突発的事由に基づいて支払われたもの及び結婚手当等支給条件はあらかじめ確定されているが、支給事由の発生が不確定であり、かつ非常に稀に発生するものをいうとされている(昭22.9.13発基17号)。

 具体的には、私傷病手当(昭26.12.27基収3857号)、加療見舞金(昭27.5.10基収6054号)及び退職金(昭22.9.13発基17号)等がこれに当たるとされている。

② 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金

 例えば、半期毎に支払われる賞与がこれに含まれる。同じ賞与であっても、これが四半期毎に支払われるのであれば、3か月を超えないため「賃金の総額」に算入される(厚労省『労基法上』188頁)。

 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たるか否かは、当該賃金の計算期間が3か月を超えるかどうかによって定まるのであって、例えば10月から翌年3月までの期間にわたって支払われる冬営手当について、それが10月に一括支給されても、月割計算の建前をとっている限り、毎月分の前渡と認められるから3か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たらないとされている(昭25.4.25基収392号)。また、一人の労働者についてみると各種の褒賞金がほとんど毎月支払われているような場合であっても、個々の褒賞金の計算期間が3か月を超えるときは、当該褒賞金は3か月を超える期間ごとに支払われる賃金に当たるとされている(昭26.11.1基収169号)。

③ 通貨以外のもので支払われた賃金で一定の範囲に属しないもの

 労基法12条5項に基づき労基則2条に規定されている「一定の範囲に属する実物給与」については、「賃金の総額」に算入される。労基則2条は、「一定の範囲に属する実物給与」について、労基法24条1項ただし書の規定による法令又は労働協約の別段の定めに基づいて支払われるものとしている。詳しくは厚労省『労基法上』189頁以下を参照されたい。

 それ以外の実物給与は「賃金の総額」に算入されない。もっとも、かかる実物給与が賃金の大部分を占める場合については、平均賃金が不当に低くなる場合があるため、労基法12条8項に基づき例外が定められている。詳しくは厚労省『労基法上』201頁以下を参照されたい。

4 その期間の総日数で除した金額

 分母となる労基法12条1項本文の「その期間の総日数」は、算定期間(同条3項各号の期間は控除し、雇入れ後3か月に満たない者については雇入れ後の期間)の総暦日数であって、労働日数ではない(厚労省『労基法上』182頁)。

 「支払われた賃金の総額」を「その期間の総日数」で除した金額について、1銭未満(小数点第3位以下)の端数は切り捨てる(昭22.11.5基発232号)。なお、平均賃金は1銭単位(小数点第2位まで)で計算されるが、実際に解雇予告手当を支払う際には、通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律3条により端数処理がなされる(特約がある場合にはその特約により、特約がない場合には1円未満の端数を四捨五入)。

5 日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制における平均賃金の最低保障(1項ただし書)

 前述したように、平均賃金は原則として「これを算定すべき事由の発生した日以前三箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除し」て計算される(労基法12条1項本文)。

 しかし、日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制の場合、上記算定期間中はたまたま勤務日などが少なく、極端に平均賃金が低く算定されてしまうおそれがある。そこで、労基法12条1項ただし書は、日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制の場合に、平均賃金の額は下記の同条各号によって計算した金額を下ってはならないとして、平均賃金の最低保障を定めている。同条1項本文で計算した金額が当該最低保障の金額に満たない場合には、当該最低保障の金額が平均賃金となる。

 なお、日給月給制(賃金を月単位で算定して支払う点で月給制と同じだが、遅刻、早退、欠勤等により、所定の労働をしなかった場合には、所定の賃金額から労働しなかった時間数又は日数に応じて一定額を差し引き、残額を賃金として支払う制度。)はあくまで月給制であり、労基法12条1項ただし書による最低保障は適用されない(昭27.5.10基収6054号)。もっとも、この場合についても同条8項に基づき最低保障が定められている(詳しくは厚労省『労基法上』194頁以下を参照されたい。)。

 また、算定期間の途中で賃金形態が変更された場合についても労基法12条1項ただし書による最低保障は適用されない(厚労省『労基法上』184頁)が、この場合についても同条8項に基づき最低保障が定められている(詳しくは厚労省『労基法上』194頁以下を参照されたい。)。

① 1号

 賃金が日給制、時間給制又は出来高払制その他の請負制によって定められている場合には、算定期間中にかかる定めに基づいて支払われた賃金の総額(2号に規定されている賃金は含まない。昭22.12.26基発573号)をその期間中に実際に労働した日数で除した金額の100分の60がその最低保障額となる。詳細な計算方法は厚労省『労基法上』184頁以下を参照されたい。

② 2号

 賃金の一部が月給制や週給制等により、一部が1号の賃金形態によって定められている場合には、月給制や週給制等によって支払われた賃金の部分の総額をその期間の総日数(労働日数ではなく暦日数)で除した金額と、1号により計算した金額との合計額が最低保障額となる。

6 日日雇い入れられる者の平均賃金(7項)

 日日雇い入れられる者(一日の契約期間で雇い入れられ、その日限りでその労働契約が終了する労働者、厚労省『労基法上』192頁)については、その従事する事業又は職業について、厚生労働大臣の定める金額を平均賃金とする(労基法12条7項)。具体的には、昭和38年労働省告示第52号において定められている。詳しくは厚労省『労基法上』192頁以下を参照されたい。

7 その他の場合の平均賃金(8項)

 労基法12条1項から6項によって算定し得ない場合の平均賃金は、厚生労働大臣の定めるところによる(同条8項)。「算定し得ない場合」とは、文字通り算定が不可能な場合のみならず、同条1項から6項によって算定することが著しく不適当な場合も含むと解されている(厚労省『労基法上』194頁)。

 本項に基づき、労基則3条に試用期間中の平均賃金に関する算定方法が示されているほか、労基則4条及び昭和24年労働省告示第5号によって、都道府県労働局長又は厚生労働省労働基準局長にその決定権限が委任されている。詳しくは厚労省『労基法上』194頁以下を参照されたい。

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