【解雇事件マニュアル】Q11解雇予告義務違反の解雇の効力は

 労基法20条の解雇予告義務違反、すなわち客観的に解雇予告除外事由が存在しないのに、30日前の解雇予告または30日分の解雇予告手当の支払をしないでなされた解雇は有効であろうか。

 学説では、絶対的無効説、有効説、相対的無効説、選択権説などが唱えられた(菅野ら『労働法』744頁)。

 判例は、細谷服装事件・最二小判昭35.3.11民集14巻3号403頁において「使用者が労働基準法二〇条所定の予告期間をおかず、または予告手当の支払をしないで労働者に解雇の通知をした場合、その通知は即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知后同条所定の三〇日の期間を経過するか、または通知の後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものと解すべきであつて、本件解雇の通知は三〇日の期間経過と共に解雇の効力を生じたものとする原判決の判断は正当である。」として相対的無効説を採用した。

 すなわち、使用者が、即時解雇としては無効であるとすれば即時解雇には固執せず、解雇の意思表示から30日の期間を経過するか予告手当の支払をしたときに解雇の効力を生じさせる意思である場合には、即時解雇としては無効であるとしても解雇の意思表示から30日の期間を経過するか予告手当の支払をしたときに解雇の効力が発生することになる。小松新聞舗事件・東京地判平14.1.21労判600号14頁やトライコー事件・東京地判平26.1.30労判1097号75頁も、即時解雇を無効としつつ解雇の意思表示から30日の期間が経過することによって解雇の効力が生じるとした。

 これに対して、使用者が、あくまで即時解雇のみに固執し解雇日を解雇予告から30日間経過後に変更する意思がない場合には、解雇予告義務違反の解雇自体が無効になる。

 なお、上記最高裁判例より後の裁判例である小料理屋「尾婆伴」事件・大阪地決平元.10.25労判551号22頁は、解雇予告除外事由がないことを理由に即時解雇としてなされた解雇を無効としており、菅野ら「労働法」745頁は同裁判例は絶対的無効説に従ったものであるとしている。もっとも、同裁判例は、信義則違反などによりいずれにせよ解雇は無効であることを前提としており、解雇予告義務違反のみを解雇無効の理由としているものではない。

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