【解雇事件マニュアル】Q13解雇を争わずに解雇予告手当を請求することはできるか

 判例上、解雇予告手当を支払わずにされた解雇予告義務違反の即時解雇であっても、使用者が即時解雇に固執しない場合には、解雇の意思表示から30日の期間を経過すれば解雇の効力が有効に発生するとされている(細谷服装事件・最二小判昭35.3.11民集14巻3号403頁、相対的無効説)。

 相対的無効説を貫くと、解雇予告手当が未払であっても、解雇の意思表示から30日の期間を経過すれば解雇予告手当の支払は不要になるため、もはや労働者が使用者に対して解雇予告手当を請求することはできないようにも思える。

 なお、この場合でも、労働者が、解雇が即時解雇としては無効であることを前提に、解雇の意思表示から30日間分の賃金を請求することはできる。もっとも、労働者は即時解雇された後は現実には就労していないであろうから、賃金請求が認められるためには労働者は民法536条2項の使用者の責めに帰すべき事由を主張立証しなければならないため、解雇予告手当を請求できるとした場合に比べて主張立証構造がやや複雑になる。

 そこで、学説上は、使用者が即時解雇事由がないのに予告期間を置かずに予告手当の支払もせずに解雇の通知をしたときは、労働者は解雇の無効の主張と解雇有効を前提としての予告手当の請求とのいずれかを選択できるとの選択権説も有力に主張されている(菅野ら『労働法』746頁参照)。上記昭和35年判例以降の裁判例にも、選択権説に立って解雇予告手当の請求を認めたと解されるものが存在する(宇田工業事件・大阪地判昭60.12.23労判467.74、セキレイ事件・東京地判平4.1.21労判605.91)。

 また、プラス資材事件・東京地判昭51.12.24判時841.101は、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を負うとして、解雇予告手当の請求を認めた。

 医療法人光優会事件・大阪高判平26.7.11も、当然のこととして解雇予告手当の請求を認容している。

 このような学説及び裁判例の傾向に照らし、東京地裁労働部裁判官による『類型別Ⅱ』560頁は、解雇の意思表示から30日の経過は解雇予告手当請求に対する抗弁にはならないと整理している。

 したがって、労働者は、解雇の効力を争わずに解雇予告手当を請求することができると考えて差し支えないであろう。

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