【解雇事件マニュアル】Q14解雇予告手当請求権はいつから遅滞に陥るか

 解雇予告手当請求権がいつから遅滞に陥り、遅延損害金が発生するのかについては、裁判例によって見解が分かれている。

 例えば、プラス資材事件・東京地判昭51.12.24判時841.101は、使用者は労働者に対して解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を負うとしたうえ、使用者は労働者に対して即時解雇の通知後30日の期間経過により労働契約が終了した時点で解雇予告手当を支払うべき公法上の義務を具体的、確定的に負うとして、また解雇予告手当を現実に支払うことが解雇の有効要件であると解されていることに鑑み、解雇予告手当請求権はその翌日から遅滞に陥るとした。日本印章事件・名古屋地判昭52.3.30労判277号61頁も、労基法20条違反の解雇をして労働契約を終了させた使用者に解雇予告手当の支払義務がないとすることは同条の精神に背馳するから、使用者は労働者に対して同条により労働契約が終了した時点において即時にかつ確定的に解雇予告手当を支払うべき義務を負うとしたうえ、解雇予告手当を現実に支払うことが解雇の有効要件とされていることから、当該義務は解雇日の翌日から遅滞に陥るとした。

 これに対して、宇田工業事件・大阪地判昭60.12.23労判467.74は、選択権説を前提に、使用者は労基法20条に基づき即時解雇の時点において法律上発生した期限の定めのない債務たる性質を有する解雇予告手当支払義務を負担するとし、訴状をもって解雇予告手当の支払を請求したとして、訴状送達の日の翌日に当該義務が遅滞に陥ったとした。

 この点、東京地裁労働部裁判官による『類型別Ⅱ』568頁は、労基法20条及び判例の相対的無効説を前提としても、解雇予告手当は労基法の定める30日以上の解雇予告が行われなかった場合の解雇の有効要件として機能しているといえるところ、かかる機能に照らせば、解雇予告手当は解雇日までに支払われるべきものと考えられ、そうであれば、解雇予告手当請求権は解雇日の翌日から遅滞に陥るとの見解は結論として妥当であろうとしている。

 したがって、即時解雇の場合も、解雇予告と解雇予告手当の併用型(労基法20条2項参照)の場合も、解雇予告手当請求権は解雇日の翌日から遅滞に陥ると考えて差し支えないだろう。

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