【解雇事件マニュアル】Q16解雇予告手当に労基法24条1項の通貨払い原則・直接払い原則が適用されるか
解雇予告手当は、労基法11条の賃金には当たらず、労基法により創設された特別の手当であると解されている(厚労省『労基法上』309頁)。
したがって、解雇予告手当には、賃金の通貨払い原則・直接払い原則を定めた労基法24条1項の適用はないはずである。
しかし、解雇予告手当が賃金ではないことを前提にしつつ、解雇予告手当の支払については、労基法24条1項に準じて労働者に対して通貨で直接支払うよう指導すべきとする通達がある(昭23.8.18基収2520号)。
裁判例においても、解雇予告手当に労基法24条1項の趣旨が適用されるかのような結論を示すものがある。
日本国連協会事件・東京地判昭39.4.28労判38号11頁は、労基法24条が通貨払の原則を定めていることを理由に、労働協約に定めがあるなど特段の事情のある場合は格別、小切手によっては、解雇予告手当を有効に支払のために提供したものと解することができないとした。
ジェフ事件・東京地判昭59.6.26労判434号38頁は、解雇予告手当について、使用者が、労働者の使用者に対する損害賠償債務の弁済に充てる趣旨でその支払を留保し、労働者もこれに承諾した事案において、労働者が自由な意思により解雇予告手当を損害賠償債務の弁済に充当することを承諾したものとすることはできず、使用者が解雇予告手当を損害賠償債務の弁済のために預かったことは、賃金の全額払の原則を定めた労基法24条1項の規定に違反するとした。なお、同判決の評釈(労判454号38頁)は、一般に解雇予告手当は「賃金」ではないとされるから、解雇予告手当については、労基法24条1項の問題というより、労基法20条の解雇予告手当の性質との関連で取り扱うのが妥当であろうとしている。
関西フェルトファブリック事件・大阪地決平8.3.15労判692号30頁は、解雇予告手当は、実質的には賃金であるから労基法24条1項の全額払いの原則の趣旨から実際に支払われるべきであり、労働者の真に自由な意思に反して使用者は労働者の行為に基づく損害と相殺することは許されないとした。