【解雇事件マニュアル】Q17解雇予告手当の付加金を請求する際の留意点は

1 付加金の請求

 使用者が解雇予告手当を支払わない場合、裁判所は、労働者の請求により、使用者に対して、使用者が支払わなければならない解雇予告手当と同額の付加金の支払を命じることができる(労基法114条)。

 裁判所が使用者に付加金の支払を命じることができるのは、労働者の請求があった場合であるから、付加金を求めるためには訴訟の請求の趣旨において解雇予告手当の請求と併合して付加金を請求する必要がある。

 付加金は、付加金の支払を命じる判決が確定して初めてその支払義務が生じるものであるから、付加金に対する遅延損害金の起算日は、判決確定の日の翌日とすべきである(最一小判昭43.12.19集民93号713頁)。

 付加金は、労働契約に基づき発生するものではなく、労基法114条に基づき裁判所が制裁として命じるものであるから、付加金の遅延損害金には民法404条2項所定の年3%(平成29年法律第44号による改正前は年5%)の利率が適用される。

 付加金に対して仮執行宣言を付することはできない(『類型別Ⅰ』268頁)。

 解雇予告手当の請求に付加金を併合して訴訟提起する場合には、付加金の請求は、民訴法9条2項にいう訴訟の附帯の目的である損害賠償又はい違約金の請求に含まれるものとして、その価額は当該訴訟の目的の価額に算入されない(最三小判平27.5.19民集69巻4号635頁)。したがって、付加金の請求分に係る印紙は不要である。

2 付加金の支払を命じることができる場合

 付加金の支払義務は、裁判所がその支払を命じることによって初めて発生するものであるから、解雇予告手当支払義務違反があっても、事実審の口頭弁論終結時までに解雇予告手当が支払われ、解雇予告手当支払義務違反の状況が消滅した場合には、裁判所は付加金の支払を命じることはできない(割増賃金につき甲野堂薬局事件・最一小判平26.3.6労判1119号5頁)。

 解雇予告手当の一部のみを支払ったときは、裁判所が命じることのできる付加金の額は、その残額にまで減額される。

 付加金支払を認める判決の基礎とすることができる事実は事実審の口頭弁論終結時までのものであることから、使用者が事実審口頭弁論終結後、判決確定前に解雇予告手当を支払ったことを理由に、請求異議の方法で付加金支払を争うことはできない(損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件・東京高判平29.5.25(一審東京地判平28.10.14労判1157号59頁))。

 もっとも、付加金の支払を命じる第一審判決に対して使用者が控訴し、事実審である控訴審の口頭弁論終結時までに使用者が解雇予告手当を支払った場合には、控訴審裁判所は付加金の支払を命じることができず、第一審判決のうち付加金の支払を命じた部分を取り消すことになる。

3 除斥期間

 付加金の請求は、解雇予告手当の支払義務違反のあった時から3年以内にしなければならない(労基法114条・143条)。労基法114条は「五年以内」としているが、令和2年4月1日施行の改正(改正前は「二年」であった。)における経過措置として、労基法143条により当分の間「三年」とされている。

 当該期間は、除斥期間であると解されている(厚労省『労基法下』1150頁)。

 したがって、付加金については催告等によって請求期間を延長することはできない。

4 労働審判における付加金の請求

 付加金は裁判所が支払を命じるものであるから(労基法114条)、労働審判委員会が労働審判において付加金を命じることはできない。

 もっとも、労働審判に対する異議が申し立てられると、当該労働審判申立ての時に訴えの提起があったとみなされることから(労審22条1項)、除斥期間との関係で、労働審判申立ての際にも付加金を請求しておくべきである。

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