【解雇事件マニュアル】Q18解雇権濫用法理とは

 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

労契法16条

 これは、判例上形成された解雇権濫用法理が、平成15年労基法改正により労基法上に明文化され、平成19年労契法成立により労契法に移し替えられたものである。

 解雇権濫用法理は、権利濫用法理(民法1条3項、労契法3条5項参照)の一種である。

 解雇権の濫用の成立は、①解雇が客観的に合理的な理由を欠くか(客観的合理性)、②(客観的に合理的な理由が存在しても)解雇という措置をとることが社会通念上の相当性を欠くか(社会的相当性)という2段階で判断される。

 ①客観的合理性とは、労働者の労働能力の欠如、規律違反行為の存在、経営上の必要性など、解雇理由として合理的と考えられる事情が存在すること、②社会的相当性とは、それらの事情の内容・程度、労働者側の情況、不当な動機・目的の有無、使用者側の事情や対応、他の労働者への対応例との比較、解雇手続の履践など、当該解雇にかかる諸事情を総合的に勘案し、労働者の雇用喪失という不利益に相応する事情が存在していることをいうとされている(水町『詳解労働法』1007頁)。

 もっとも、①②を明確に区別することは難しく、裁判例では①②が一体的に説示される場合も少なくない(菅野ら『労働法』748頁)。『類型別Ⅱ』368頁も、解雇権濫用の要件事実について、普通解雇の抗弁に対して「解雇権の行使が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合に当たることの評価根拠事実」が再抗弁となり、「解雇権の行使が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合に当たらないことの評価障害事実」が再々抗弁となると、①②を一体的なものとして整理している。

 裁判実務上、就業規則に解雇事由が列挙されている場合には、就業規則所定の解雇事由に該当する事実があれば①客観的合理性を認め、あとは②社会的相当性の問題とするという整理がなされることが多い。

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