【解雇事件マニュアル】Q19解雇権濫用の主張立証責任は
解雇権濫用は、権利濫用(民法1条3項)の一種であり、規範的要件である。
『類型別Ⅱ』368頁は、解雇権濫用の要件事実について、使用者の普通解雇の抗弁に対して、労働者が再抗弁として「解雇権の行使が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合に当たることの評価根拠事実」を主張し、使用者が再々抗弁として「解雇権の行使が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当として是認できない場合に当たらないことの評価障害事実」を主張するものとしている。
しかし、解雇権濫用法理の実質は、解雇を容易に認めないという法理であるため、裁判実務では、労働者から何ら落ち度なく勤務してきたなどの概括的主張があれば、権利濫用の評価根拠事実としての具体的事実の主張がされたものとし、使用者において、再々抗弁としての権利濫用の評価障害事実、すなわち解雇理由となる具体的事実の主張立証責任が生じるとするのが一般的である(『類型別Ⅱ』392頁)。
したがって、解雇権濫用については、使用者側が解雇理由となる具体的事実の主張立証責任を負っている。