【解雇事件マニュアル】Q21労働能力の欠如を理由とする期間途中の解雇はどのような場合に有効になるか

1 はじめに

 労契法17条1項の「やむを得ない事由」が認められるためには、①客観的合理性及び②社会的相当性(労契法16条)に加えて、期間満了を待たずに直ちに雇用を終了させざるを得ない特段の重大な事由が存在することが必要と解される。

 労働能力の欠如を理由とする期間途中の解雇の有効・無効は、事例判断によるほかないため、以下、労働能力の欠如を理由とする期間途中の解雇が無効とされた裁判例及び有効とされた裁判例を紹介する。

2 無効例

⑴ 東大阪市環境保全公社事件・大阪地決平22.1.20労判1002号54頁

 同決定では、定年退職して臨時職員の事務職として雇用されるようになった平成16年4月1日以降、10回に渡って雇用契約の更新がなされてきた労働者が、最後の雇用期間である平成21年9月30日より前の同月11日に、ア就労意思がなく、疾病等により業務従事に不適当であること、イ不正行為又は使用者の信用を著しく失墜する言動が認められたこと、ウ使用者の業務命令及び指示に従わず、これに反抗的な態度が認められたことを理由に解雇された。

 アの点について、決定は、労働者は、平成21年6月をほぼ全休し,7月は病気欠勤,8月は,21日までの出勤が実質2.5日にすぎなかったことが一応認められるとしつつ、しかし,労働者は,右内頸動脈狭窄症の診断により平成21年7月1日より入院し,同月7日に手術をするという診断書を提出したこと,その間,病気入院中であったこと,退院後も有給休暇の手続をとっていること,以上の点が一応認められ,これらの点からすると,使用者の業務の適正円滑な遂行に当たって,労働者にも配慮が欠けている点がうかがわれるものの,労働者に就労意思がなかったとは言い難く,また,担当業務の変更(公園便所の清掃業務)によって,業務遂行が可能であるとも認められるから,使用者が主張する上記の各点をもって,雇用期間が満了するまでの間に解雇することについて,やむを得ない事由がある場合に該当するとは言い難いとした。

 イの点について、決定は、①労働者が中元及び歳暮を受領していたと一応認められるものの,その趣旨目的については明確ではなく,労働者の方からこれらを積極的に要求したとも認め難く,これをもって解雇理由となる「不正行為又は債務者の信用を著しく失墜する言動」とは言い難いこと,②臨時雇用者等との金銭問題に関しては,労働者は,これを明確に否定しているところ,その経緯等が必ずしも明確なものであるとはいえず,また,仮に,労働者の返済が滞っていたとしても,その事実をもって,解雇理由となる「不正行為又は債務者の信用を著しく失墜する言動」とは言い難いこと,③M酒店に関する点について,労働者は,当時のQ事務局長の指示の下に行った旨主張しているところ,同作業を行うに至った経緯等は必ずしも明確ではなく,本件手続においては,同事務局長の指示があったか否か不明といわざるを得ないこと,④平成21年8月5日付け文書は,「債務者有志一同代表者N」名でなされたものであるところ,その内容は,記載内容からすると,業務の改善等を求めるものと認められ,使用者の業務が東大阪市と密接に関連していることをも併せかんがみると,これをもって使用者の信用が著しく失墜したとは言い難いこと,⑤その他使用者が指摘する点についても,これらを認めるに足りる的確な疎明があるとは言い難いこと,以上の点が認められ,これらの点からすると,労働者について,不正行為又は公社の信用を著しく失墜する言動が認められたことを認めるに足りる疎明があったとは言い難いとした。

 ウの点について、決定は、確かに,労働者としても配慮に欠ける面があることは否定し難く,使用者としても労働者に対して注意指導をしていたことは窺われるとしつつ、しかし,使用者が指摘する労働者の問題行動の内容,その回数,使用者の労働者に対する注意指導の状況,労働者の言動によって,使用者が具体的にいかなる損害を被ったのか必ずしも明らかとはいえないこと等に照らすと,労働者について,使用者が主張するような反抗的な態度が窺われるとしても,それらの点をもって,本件解雇が社会通念上相当なものであったとまで認めるに足りる疎明があるとは言い難いとした。

 以上より、決定は、労働者を雇用期間途中の9月11日に解雇することがやむを得ない場合であることに関する疎明があるとはいえず、したがって、労働者に対する本件解雇は,無効であるといわざるを得ないとした。

 ⑵ 学校法人東奥義塾事件・仙台高秋田支判平24.1.25労判1046.22〔確定〕

 同判決では、平成21年4月付けで雇用期間を平成25年3月31日までとしてA高校の塾長(校長に相当)に採用された労働者が、平成22年3月13日付けで、①理事会の存在価値を否定し、学歴のない理事を批判したこと、②定時総会において、生徒の知能やA高校の教師の能力が低いなどと発言したこと、③A高校内の清涼飲料水の自動販売機設置につき、清涼飲料水の危険性を指摘した張り紙を貼るなどし、また、張り紙のはがし方に抗議したBに対しても、配慮を欠いた言動をしたこと、④交換留学生のホストファミリーの心情に配慮した言動を取れなかったこと、⑤卒業式において学歴の話をしたこと、⑥A高校の卒業祝賀会において不適切な発言をしたこと、⑦A高校の礼拝説教において不適切な発言をしたこと、⑧未だ理事会において採用する旨議決されていなかったEを平成22年度のオルガン奏者とする人事案を理事会に提案しないまま職員会議において公表したことろ理由に解雇された。

 判決は、労契法17条1項が、解雇一般につき、客観的に合理的な理由及び社会通念上の相当性がない場合には解雇を無効とするとする同法16条の文言をあえて使用していないことなどからすると、同法17条1項にいうやむを得ない事由とは、客観的に合理的な理由及び社会通念上相当である事情に加えて、当該雇用を終了させざるを得ない特段の事情と解するのが相当であるとした。

 ①の点について、判決は、労働者は、職員会議や運営委員会において、理事会や理事に対する不満を述べ、その中には「学歴のない理事がいる」などという適切さを欠いた発言もあった事実が認められるとしたが、しかしながら労働者は、平成21年度第1回理事会において、理事会が最高意思決定機関である旨を理解して、そうではないとした意見を撤回しており、実際にも、平成21年秋以降労働者の理事会や理事に対する批判的な言動が止んでいたと認められるから、労働者の当該言動自体を、やむを得ない事由の有無を検討する上で考慮することはできないとした。

 ②の点について、判決は、労働者は、定時総会において、A高校には知能が低い生徒や外界の知識に乏しい教員がいるといった趣旨の発言をしたと認められ、労働者が会員らの母校の生徒や教職員らに対する愛着心を顧慮しなかったという点は否定できないとしたが、しかしながら、この発言は塾長就任後約2か月のものである上、労働者は、生徒及び教師の能力について自らが調査して認識したところを会員に指摘する趣旨で発言したものと認められ、その目的は、A高校の生徒や教員を非難するというものではなく、会員らとの間で同校の問題点につき共通認識を持ち、その改善の方策を示し、会員らに対し、具体的な協力を要請することにあったと認められるから、その発言をもって不適切とはいえないとした。

 ③の点について、判決は、事業部の管理に係る物品に一方的に張り紙をした点は、これが生徒の健康を考慮したものとしても、理事会に諮るなどせずに、一方的に実行したもので、適切であったとはいえず、清涼飲料水を販売する事業部の取引先数社に直接自動販売機の撤去方法などを聴取した点も、学校長である塾長としての対外的評価などを考慮すれば、周囲の教職員らに相談するなどしてより穏当な対応方法を検討するなどの配慮が望まれたものであるとした。他方、Bに対する応対については、労働者には、Bに対し、より冷静な対応も望まれたところであるが、Bが、労働者に対し張り紙を付近に捨てただろうなどと詰問し押し問答となっていった際に、これにつき特段の根拠をもっていたとは認められないことに照らせば、Bが、労働者に対し礼節を要求できる立場にあったとは必ずしもいえないから、労働者の行為が不適切であるとまではいい難いとした。

 ④の点について、判決は、確かに、労働者の言動により、労働者と面談したホストファミリーが強い不安を感じたことがうかがわれ、労働者に、ホストファミリーの労をねぎらいつつ、留学生の支援を求めるなどする配慮があればかかる事態は生じなかった余地があるともいえるが、労働者なりに自己の経験から留学生の心情や留学生活の充実を憂慮したための言動と認められるほか、教職員らの対応により、問題は終息しており、当該事情をもって、やむを得ない事由の有無を検討する上で考慮することはできないとした。

 ⑤の点について、判決は、卒業式において、いかなる文脈においても学歴の話ができないなどとはいえず、労働者の話の具体的内容に照らしても、不適切なものがあったとは認められないとした。

 ⑥の点について、判決は、労働者は、卒業祝賀会の塾長の祝辞を述べるに当たり、「落ちこぼれ」「停学くらった」などの言葉を不用意に使用しており、出席した父兄の中には不快に感じる者もいたというのも当然であり、これが配慮を欠いた式辞であったことは明らかであり、すでに塾長就任から1年になろうとする時期の発言であることも踏まえると、労働者には、教育者として、またA高校の校務全体をつかさどる職責を有する塾長として、見識に欠けるものがあったといわねばならないとした。

 ⑦の点について、判決は、労働者は、法人の外部団体が自動販売機の飲み物で儲けており、労働者がこの外部団体の商売を妨害していると激怒して労働者を憎むようになり、今では労働者を排除する計画を立てている旨発言したと認められるが、これは、紛争当事者の一方のみがその立場を主張したものというほかなく、また、労働者の話を耳にする生徒らの心情への配慮にも薄く、労働者の見識に欠けるところがあったといわざるを得ないとした。

 ⑧の点について、判決は、法人が、本件解職処分後、Eに対し、A高校の非常勤のオルガン奏者となることを委託していること、労働者が公表したのが案に過ぎず、その他に、労働者が、Eがオルガン奏者に任用されたことを前提とする行為を行っているともうかがわれないこと、職員の任命を決定する理事会の構成員であり、かつ教職員を監督し統率することを職務とする労働者が、職員の意見を反映してそのような案を策定して理事会に備えることが不当とも解されないことによれば、労働者の行為が寄附行為に反するなどとは認め難いとした。

 判決は、以上の諸点を総合的に検討すると、労働者は、卒業祝賀会や礼拝に際し、学校関係者への配慮を欠いた発言をしており、また、事業部が炭酸飲料の撤去に直ちに応じないのに対し、事業部の管理に係る自動販売機に無断で張り紙をするなど、やや乱暴で思慮を欠くというべき行動をとっており、校務をつかさどり、所属職員を監督する塾長としての見識が十分でない面があることは否定できないとしつつ、しかしながら、清涼飲料水の自動販売機などに張り紙を貼るなどした行為については、A高校の生徒の健康を図る目的があり、卒業祝賀会における発言については、父兄の労苦をねぎらうなどの意図でなされたものと認められ、極めて不適切とはいえず、礼拝における言動は、労働者が、A高校から排除される懸念を抱いたことによりなされたものとも推測され、その後、実際に本件解職処分が行われたことも踏まえると、同様に極めて不適切とはいえず、そして、労働者の塾長としての活動により、職員会議への職員の出席率が向上し、学生の態度に良好な変化があったと認められ、労働者は、4年の任期の初年度において、すでに、塾長として一定の成果を出していたことに照らすと、労働者が、塾長として、教職員らからの一定の信頼を得ていたと認められ、これに加え、労働者には、そもそも管理職経験はおろか国内における一般的な教職経験もなかったものであり、理事長をはじめとする理事会がこれを承知であえて労働者を塾長として採用したと認められるのであって、各理事、理事会においても、これを踏まえて、労働者の経験不足の点を補完すべきであったと解されるところ、理事会がこれを全うしたとは認められないとし、以上の諸事情を勘案すると、本件解職処分には、労契法17条1項にいうやむを得ない事由があったとは認め難いとした。

 ⑶ NHK神戸放送局(地域スタッフ)事件・大阪地判平26.6.5労判1098号5頁

 同判決では、平成13年7月2日に法人と放送受信料の集金及び放送受信契約締結等を内容とする有期委託契約を締結し、期間を6か月ないし3年間とする契約を5回に渡り更新してきた原告について、原告の労働者性を前提として、最後の契約期間である平成25年3月31日より前の平成24年3月1日に行われた期間途中の解約の効力が争われた。

 法人は、スタッフが3期連続して目標の80%を割り込んだ場合又は1回でも目標の60%を割り込んだ場合には、通常の指導助言より強力な特別指導の対象と位置付け、スタッフの指揮監督をしていたところ、原告に対し、平成19年度第2期以降平成24年度第5期まで、継続的に特別指導の対象としていたものの、その成果がないと判断し、平成24年3月1日をもって本件解約を行った。

 判決は、確かに、原告は、法人の定めた特別指導の基準に合致しており、その後も期待するような成果は上げられておらず、また、原告がその理由としてあげる法人の不祥事や実母の看病ほかの事情は、いずれも長期間実績が上げられないことの合理的な理由とはいえないとしつつ、しかしながら、労契法17条1項に規定する「やむを得ない事由」とは、期間の定めのない労働契約における一般的な解雇権濫用の判断基準よりも強度のものが必要であり、期間の満了を待たずに解雇を行わなければならないほど切迫した事情が必要であると解するのが相当であるとされていることに照らすと、前述のような原告の成績不良をもって、このような切迫した事情に該当すると認めるのは困難というほかはないとした。

 また、判決は、本件契約の労働契約性からいえば、本件契約のような有期の契約を解約(途中解雇)するには、手続的にも適正であることが必要というべきところ、本件解約は、法人の定めた本件解約条項にも合致していない、すなわち、本件解約条項は、「『特別指導』を実施中のスタッフの委託契約を更新する場合には、法人から当該スタッフに対し、具体的な業務改善要望事項を示してこれを誠実に履行することを約束させ、3年間の契約を改めて締結し、その約束が果たされず、業績改善の見とおしが立たない場合に初めて解約できる」というものであるが、原告との間で締結された平成19年4月1日付け契約、平成20年10月1日付け契約、平成22年4月1日付け契約及び同年10月1日付け契約のいずれの際にも、法人からの具体的な業務改善要望事項が明示され、それに対して原告が誠実に履行することを約束する手続が行われたことを裏付ける証拠は提出されていないとした。

 そして、判決は、法人の行った本件解約は、労契法17条1項に規定する「やむを得ない事由」に該当しないばかりか、法人自身の定めた手続要件を満たしていないから、無効といわざるを得ないとした。

 なお、同事件の控訴審判決であるNHK神戸放送局(地域スタッフ)事件・大阪高判平27.9.11労判1130号22頁〔上告棄却・不受理により確定〕は、原告の労働者性を否定して原告の請求を棄却している。

⑷ レラ・六本木販売事件・東京地判平28.4.15労経速2290号14頁

 同判決では、平成21年2月2日に有期の営業事務として雇用され3回に渡り契約更新された労働者について、最後の雇用期間である平成25年2月1日より前の平成24年2月29日付けで解雇がなされた。①与えられた職務をこなせず、②他の従業員から指導、注意を受けても業務を改善せず、③かえって指導、注意をした従業員に反抗する態度をとり続けていたことが解雇理由とされた。

 ①の点について、判決は、使用者において労働契約の継続を困難とするほどの重大な支障であると判断していたとは認め難いとした。

 ②の点について、判決は、確かに、労働者が掃除にかかる時間や灰皿交換の頃合い、お茶出しの頃合い等について何度も同様の注意を受けた旨が営業日報に記載されており、労働者本人も「毎日言われることが同じ」であった旨の陳述をしていることからすると、使用者において労働者の能率向上の意欲に疑問を差し挟むことも理解できないわけではないとしつつ、しかしながら、このような場合にも、解雇が労働者に与える不利益が大きいことに照らすと、使用者としては、労働者から個別に事情を聴取して原因を検証し、その内容に応じて適切な改善策を検討して経過をみたり、理由を詳細に記載した書面による警告や譴責、減給等の懲戒処分を実施して改善の機会を付与するなどの慎重な対応をとるべきであり、このような対応をとることなく意欲や態度が不良であり就業に適しないと即断することは適切なものとはいい難いとした。そして、使用者が、労働者の主張について個別に事情を聴取して適切な改善策を検討して経過をみたり、労働者に対して理由を詳細に記載した書面による警告をするなどした形跡はないとし、労働者が過去に懲戒処分を受けたことがないことも考慮すると、使用者が労働者に十分な改善の機会を付与したものとは認め難いとした。

 ③の点について、判決は、確かに、労働者が、指導、注意をした従業員に対し、反抗し、不貞腐れるなどの態度をとったことがあることは窺われるものの、そのような態度をとり続けていたことを認めるに足りる的確な証拠はない上、B専務が、本件解雇の直接の契機となった出来事について、口論の原因は指導、注意をした従業員と労働者のどちらにあるとも言えない旨の証言をしていることにも照らすと、被告において上記の態度が職場規律の維持に回復し難い重大な支障を来すものと判断していたとは認め難いとした。使用者は、同出来事について、労働者が自分の責任を棚に上げて他の従業員批判を公然と展開し始めたと主張したが、使用者による労働者に責任があるとの評価を正当化するに足りる事情を認めるに足りず、かえって、労働者の弁明を聴取することもないまま上記のように評価しており、十分な事実確認を経ずに一方的な評価を下したことが窺われるとした。

 これらの諸点を総合考慮すると、本件解雇の時点で、解雇をすることが客観的に合理的で社会的に相当な理由は認められないとして、解雇は無効とされた。

⑸ ハンプテイ商会ほか1社事件・東京地判令2.6.11労判1233号26頁〔確定〕

 同判決は、平成29年9月21日に派遣元事業者と労働者との間に締結されていたソフトウェアに関する業務委託契約等の実質が有期労働契約であったとしたうえ、最後の契約期間である平成29年12月31日より前の同月8日付けでなされた派遣元事業者による契約解除が期間途中の解雇に当たるとした。

 解除理由について派遣元事業者は、①「労働者のスキル不足により、コーディングが不完全で、単体テストの開始までに終了すべきコンパイルの作業や動作確認が行われていなかった。また、平成29年初旬、労働者が外出・退出を繰り返したことで、単体テストのスケジュールが大幅に遅延した」旨主張した。判決は、コーディングが不完全であった等の事実を裏付けるに足りる的確な証拠はない上、それが労働者のスキル不足によることを裏付ける証拠はなく、むしろ派遣先事業者の社員が、労働者が作業に従事していた当時、労働者の開発技能や作業内容に問題があるとは認識しておらず、会議の議事録にも作業の遅れが労働者の技能不足にあることをうかがわせる指摘はなかったこと、労働者が平成29年12月初旬に2回外出し、1回午後5時に終業した事実はあるが、同年11月の労働者の作業時間は240時間を超えており、外出等により労働者が開発作業を懈怠していたとはいえないこと、カスタマイズ業務の作業が遅延していたのは、派遣先事業者の基本設計の担当者が休養に入ったこと等により基本設計が完成していなかったことや、顧客の要望により開発の分量が当初より増えたことによるものであることから、カスタマイズ業務の遅延が、労働者のスキル不足や、労働者の作業離脱によるとは認められないとした。

 また、派遣元事業者は、②「労働者は、派遣元事業者の了解を得ることなく派遣先事業者に対し、労働者と関係のあるC社の社員を作業要員として提案し、背信行為を行った。」旨主張した。判決は、労働者は、派遣先事業者の社員の依頼により、カスタマイズ業務に従事する開発作業者としてC社のH及びMを紹介した事実はあるが、派遣先事業者の社員に対しては、いずれも派遣元事業者の者として紹介したもので、同じ時期に派遣元事業者の代表者にもC社、H及びMが紹介されていること、C社と契約して、HやMを開発作業者とするかどうかは、派遣元事業者の代表者がC社と条件を交渉して決定していることからすれば、労働者が派遣先事業者にH及びMを紹介した行為が派遣元事業者に損害を与える行為とはいえず、背信行為ということはできないとした。

 以上より、判決は、契約解除は、労契法17条1項の「やむを得ない事由」の要件を欠き無効であるとした。

3 有効例

⑴ 大阪地判平29.1.26判例秘書L07250202

 同判決では、平成25年1月29日に有期雇用契約を締結し、同年3月15日に雇用期間を平成26年3月14日までとして契約更新し、消費生活協同組合で共済の営業等をしていた労働者について、期間満了前の平成25年12月20日に解雇がなされた。

 判決は、①労働者が、職場に配属されてから1か月と経たない時点で、従業員に対し、認定試験を実施してくれないとメールで再三催促をするようになり、従業員が不正をしていると主張して、共済推進グループに架電し調査を要求していたこと、②退職を申し出て退職届を提出したにもかかわらず、それを翻し、それに関連して、就業規則の読合せをして就業規則の遵守を約束したにもかかわらず、その後も遅刻や無断欠勤がみられ、日報の提出をしないこと等について、訓戒処分を受けたが、訓戒処分後も日報を提出せず、日報の提出をしないことについて正当理由があるとは認められず、平成25年11月1日以降は欠勤をしていること、③従業員が執務中にガムを噛んでいたこと等について、始末書提出を求めるとのメールやファックスを送信し、従業員が業務上の必要性から発したメールについては、名誉毀損であるとして専務理事らに慰謝料を請求する書面を送付していること、④労働者自身、職場においていじめを受けていた被害者であるかのように主張するが、労働者の自己中心的あるいは攻撃的な言動が、他の従業員との軋轢を生じさせ、他の従業員が労働者を遠ざける要因になったといわざるを得ないことを指摘し、労働者は、単に協調性を欠くというにとどまらず、独自の価値観に基づいて執拗な要求を繰り返し、あるいは自己中心的ないしは攻撃的な言動を繰り返し、周囲との間で軋轢を生じさせており、使用者が他の従業員との関係で職場環境配慮義務を履行することが容易とは言い難い状況になっていること、訓戒処分を受けながらその後も日報の提出について改善が見られないことに加え、11月1日以降は労務を提供していないこと、解雇の効力発生日から契約終了日までの日数は3ヶ月ほどであるが、欠勤の状況からして、その間に出勤できるかどうかは不透明であることを総合すれば、本件については、解雇を相当とするやむを得ない事由があると認められ、本件解雇が有効と認められるとした。

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