【解雇事件マニュアル】Q22規律違反行為を理由とする期間途中の解雇はどのような場合に有効になるか

1 はじめに

 労契法17条1項の「やむを得ない事由」が認められるためには、①客観的合理性及び②社会的相当性(労契法16条)に加えて、期間満了を待たずに直ちに雇用を終了させざるを得ない特段の重大な事由が存在することが必要と解される。

 規律違反行為を理由とする期間途中の解雇の有効・無効は、事例判断によるほかないため、以下、規律違反行為を理由とする期間途中の解雇が争われた裁判例を紹介する。

2 無効例

 ⑴ 大阪地判平30.9.20判例秘書L07350826

 同判決では、主に医師である労働者の暴力行為及びインターネット利用規程違反行為が解雇事由とされた。判決は、確かに、行為の態様や意図等に争いはあるものの、労働者が病院の職員に対し複数回にわたって暴力行為を行った事実が認められ、また、労働者は、少なくとも平成22年7月以降使用者設置のパソコンを利用して、使用者の許可を得ることなく多数回にわたって外部の特定の女性との間で業務目的外のメールを送受信していたことは認められ、労働者の同行為は、インターネット利用規程に違反する行為であるとした。しかし、判決は、本件暴力行為について、労働者は頻繁に病院の職員に対して暴力行為を行っているが、同暴力行為によって入院治療等が必要となる程度の傷害等を生じさせたとまでは認められないこと、労働者は、労働者の暴力行為を告発する投書について看護部長から指摘を受けた後はそれまで頻繁に繰り返していた職員等への暴力行為を行わないようになったこと(ただし、上記指摘後、H医師に対し暴力行為を行ったと認められるが、その態様は、8枚の資料を丸めて同医師の頭をポンポンと叩いたという程度のものであって、同行為に至った理由を考慮してもさほど悪質なものであるとは認められないとした。)、労働者は、I理事及びJ部長からの事実確認の際、反省している旨述べ、被害者に対しても謝罪したい旨述べたことが認められるとした。また、インターネット利用規程違反行為について、使用者は、インターネット利用規程を制定し、院内ホームページ上に同規程を掲載しているものの、同規程の内容や遵守に向けた指導研修等は行っていないこと、違反行為の期間及び回数は、相当程度に及んでいるものの1日当たりの回数はさほど多いとはいえないこと、メールのほとんどは外部者からの受信メールであること、受信メールについては一部長文になっているものがあるものの送信メールも含め同メールの大半は数行程度の短文であること、同メールの送受信によって使用者の業務に支障が生じていたとまでは認められないこと、労働者の業務成績に問題があったとは認められないこと、の点に鑑みると労働者の職務専念義務違反の程度は解雇に値する程度に重大かつ悪質なものであったとまでは認められないとした。そして、以上の点に、労働者にはこれまで懲戒処分歴がないこと、使用者は、投書によって労働者の本件病院の職員に対する暴力行為を認識したにもかかわらず、その後速やかな調査や検討を行うことなく、また、労働者との契約関係を解消することなく従前の労働条件と同様の内容で本件雇用契約を締結したこと(なお、仮に労働者の行為を問題とするのであれば、契約締結を一旦保留にして調査するとか、短期の有期雇用契約を締結し、その間調査検討をして、その後改めて雇用契約を締結するか否かを考えることも十分に可能であったとした。)、の事情をも併せ勘案すると、労働者の本件暴力行為はその回数や態様において、また、インターネット利用規程違反行為はその回数及び内容において、不適切かつ軽率なものであり、上記各行為は、いずれも懲戒処分に値するものであるとは認められるものの、その後の労働者の対応等上記した労働者に有利な事情を十分に斟酌した上で、労働者の処遇を決定することも十分に可能であったとも考えられ、労働者を直ちに解雇することについては、「やむを得ない事由」(労契法17条1項)があったとは認め難いとした。

⑵ 東京地判令元.12.26判タ1493号176頁

 同判決では、プログラマーとして雇用された労働者が、使用者から①ソースコードの不提出、②勤務時間中の自動車学校への通学、③ICカードの私的利用分に係るチャージ代金の請求、④私物パソコンの業務利用、⑤批判発言の送信を理由に期間途中に普通解雇され、その後上記①~⑤に加えて⑥ソースコードの提出と引換えの金銭要求を理由に期間途中に懲戒解雇された。

 ①について、判決は、労働者が本件普通解雇以前に本件ソースコードの提出義務を怠っていたものであること、ソースコードが使用者の事業存立の基礎となる重要な財産であること、本件ソースコードが平成27年9月8日に発売された商品に組み込まれたバイナリファイルに係るものであり、同商品の修正作業に不可欠のものであったことなどの諸事情に鑑みれば、労働者による本件ソースコードの不提出は、職務上の義務を怠ったというべきものであるとしつつ、しかし、使用者が労働者に対し、本件普通解雇以前に本件ソースコードを提出するように求めたことはないから、少なくとも本件普通解雇の時点では、本件ソースコードの不提出を特段問題視していなかったことがうかがわれ、また、本件普通解雇以前に、本件ソースコードの不提出によって使用者に何らかの損害が生じていたなどの事実を認めるに足りる証拠はないとし、①は、本件普通解雇の合理性判断において、大きな意味を持つとまではいえないというべきであるとした。

 ②について、判決は、そもそも事実自体が認められないとした。

 ③について、判決は、労働者は本件各ICカードの私的利用分を使用者に負担させ、使用者の財産を私的に費消したものであって、使用者に対する背任行為にも当たり得るものであり、労働者は、法律上の原因のないことを知りながら上記費消行為に及んだものであって、これを軽視することはできないとしつつ、しかしながら、使用者は、労働者の日本滞在中における業務上移動の範囲や回数を把握し得る立場にあり、業務上必要な交通費に係るチャージ代金を把握可能であったにもかかわらず、本件訴訟以前は、労働者によるチャージ代金の請求について特段精査することなくこれに応じていたのであり、使用者による本件各ICカードの管理に必ずしも十分とはいえない面があったことも否定できず、また、使用者が労働者に対し業務上必要な交通費に係るチャージ代金のみ請求し得る旨明示的に伝えたと認めるに足りる証拠はないことや、使用者が業務とは無関係の労働者の妻に対しても本件各ICカードを交付したことに鑑みれば、労働者が業務外の交通費であっても多少であれば使用者への請求が認められると考えて請求に及んだとしても、その責任が重大であるとまではいえないとし、これらの諸事情に加え、使用者が返還を請求するチャージ代金は2万7332円であり、必ずしも高額とまでいえないことも併せ考慮すれば、③は、本件普通解雇を基礎付ける事由として大きな意味があるということはできないとした。

 ④について、判決は、労働者は、使用者から業務利用のため本件貸与パソコンを貸与されていたが、遅くとも平成27年4月以降、本件私物パソコンを使用して業務を行うようになったものであるところ、使用者はソフトウェアの開発、販売等を手掛ける会社であり、ソフトウェアの開発過程で作成されたソースコード等を含むデータが流出した場合には使用者に大きな損害を与えるおそれがあるから、使用者において、従業員に対し私物パソコンの業務利用を禁止することには合理性があり、本件貸与パソコンは業務に利用するためのパソコンとして貸与されたことがうかがわれるとしつつ、しかし、他方で、使用者は、遅くとも平成27年4月3日の時点で労働者が本件私物パソコンを使用して業務を行っていることを認識したにもかかわらず、同日以降、使用者が労働者に対して本件私物パソコンを業務に使用しないよう注意したことを認めるに足りる証拠はなく、そうすると、使用者は労働者による本件私物パソコンの業務利用をどの程度問題視していたのか疑問があり、本件私物パソコンの業務利用が本件普通解雇を基礎付ける事実に当たるとみることはできないとした。

 ⑤について、判決は、労働者は、平成27年11月28日、A社長及び他の従業員複数名が参加する本件スカイプグループ内で、使用者について、社会保険がなく、年末年始も祝日も休めず、病気のまま残業をしても残業代が支払われず、このような状況は合理的でないと思う旨のメッセージを送信したところ、労働者は、同年10月に従業員Gが退職して以降、Gから引き継いだ業務への対応等のため繁忙な状況にあり、同年11月12日、A社長に対し、長時間労働が続いていることや現在の担当業務は労働者の能力を超えており解決を保証できないことなどを申告したが、A社長は、労働者に対して具体的対策も示さないまま期限までの解決を強く求め、労働者は、同月28日深夜、長時間労働を再度申告して期限の猶予を求めたが、A社長は、長時間労働の責任は労働者にあるとして、期限の遵守を厳しく要求したものであるほか、本件労働契約においては、時間外労働を行った場合も追加の賃金は支払わない旨合意されており、使用者は労働者に対し時間外労働に係る割増賃金を支払っていなかったところ、同割増賃金の不払は労基法37条1項違反であることなども考慮すれば、労働者が使用者における労働環境に不満を募らせて同日付けメッセージを送信したことを強く非難することはできないというべきであり、このことは、同メッセージが他の従業員も閲覧可能な状況下で送信されたことを踏まえても異ならないとした。

 判決は、以上のとおり、④及び⑤については、そもそも本件普通解雇を基礎付ける事由とはいえない上、①及び③についても、各事由単独では本件解雇を基礎付ける事由として大きな意味があるということはできず、両者を総合して考慮し、諸事情を併せ考慮しても、本件普通解雇について「やむを得ない事由」(労契法17条)があるということはできないから、本件普通解雇は無効であるとした。

 次に、判決は、⑥について、使用者は、平成27年11月30日、労働者に対し、本件私物パソコン内に保存されているソースコード等の提出を要求したが、労働者は、同年12月2日午前0時12分、使用者に対し、4か月分の賃金相当額の補填を要求するとともに、補填の問題が解決していないため各商品のソースコードは提出できないが、これは使用者にとって損失であり、全員にとって不利益となるのでよく考えるべきである旨記載したメールを送信したものであり、ソフトウェア開発会社である使用者にとって、販売予定商品のソースコードは事業存立のための重要な財産であるにもかかわらず、労働者は、ソースコードの不提出により使用者が損害を被ることを認識した上で、その提出と引換えに金銭の支払を要求したものであるから、使用者に対する重大な背信行為に及んだものというべきであり、⑥に該当する上記事実は、本件就業規則所定の懲戒解雇事由である「その他各号に準ずる行為があったとき」に該当するというべきであるとした。しかしながら、判決は、使用者がソースコードの提出を要求してから本件懲戒解雇に至るまでの経緯についてみると、労働者は、本件普通解雇がされた平成27年11月30日の翌日である同年12月1日に平成28年7月までの賃金の支払を要求し、さらに、平成27年12月2日午前0時12分にソースコードと引換えに4か月分の賃金支払を要求したのに対し、使用者は、約10時間後の同日午前10時23分に労働者に対して保有する全ソースコードの提出を要求し、それから約3時間後の同日午後1時14分及び午後1時18分において、提出期限をその時点から4時間弱後の同日午後5時00分までと設定し、これを2分超過した同日午後5時2分に本件懲戒解雇に及んだ経緯が存在し、労働者は、使用者に対し、上記全ソースコードの提出要求から約7時間弱後の使用者が設定した提出期限までに全く返信を含めた連絡をしなかったものであるから、電子メールという連絡手段の性質上、労働者において使用者の上記各メールを受信していたか否か自体も使用者において確実には確認できない状況において、わずか4時間弱前に設定した提出期限を2分超過した時点で、電話等の他の手段による連絡を試みることなく、直ちに本件懲戒解雇に及んだことは、あまりにも性急に過ぎるといわざるを得ず、これに加えて、本件普通解雇は無効と判断されるべきものであったのであるから、労働者の平成28年7月までの賃金支払要求は、事後的にみれば、無効な本件普通解雇について金銭支払による解決を提案したと評価することもできるものであり、全く不当であるということはできないのに対し、使用者は本件懲戒解雇に至るまでの短時間の間、労働者の上記賃金支払要求の提案を含め退職条件に関する交渉に何ら応じる態度を示さない状況において、労働者がソースコードの提出と引換えに平成28年7月までの賃金よりも少額の4か月分の賃金補填を要求した経緯に鑑みると、労働者が本件普通解雇を巡る賃金等の支払の交渉において、使用者の交渉に応じない上記態度に対する交渉の手段としてソースコードとの引換えを持ち出したとみることもでき、しかも、労働者がこのような要求に及んだのは使用者の上記態度に起因する部分もあったものといわざるを得ないとした。

 判決は、以上のとおり、⑥に係るソースコードと引換えの賃金補填の要求は、本件就業規則所定の懲戒解雇事由に該当するものの、本件懲戒解雇に至る経緯があまりにも性急に過ぎる点や、同要求に至ったことには使用者にも一定の要因があることなどの事情が存在し、①及び③から⑤までについて既に判示したところを考慮すると、①から⑥までの各事由を総合しても、本件懲戒解雇は、やむを得ない事由があるものとは認められず、無効というべきであるとした。

3 有効例

 規律違反行為を主な理由として期間途中の解雇を有効とした裁判例は見当たらないが、Q21で紹介した大阪地判平29.1.26判例秘書L07250202は、訓戒処分を受けたにもかかわらず日報の提出をしないなど規律違反行為があったことも解雇有効の理由とされているものと思われる。

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