【解雇事件マニュアル】Q34国籍・信条・社会的身分を理由とする解雇の禁止とは
労基法3条は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について差別的取扱をすることを禁止している。本条に違反する法律行為は無効である(菅野ら『労働法』280頁)。
同条の「その他の労働条件」には、解雇に関する条件も含まれるとされている(昭23.6.16基収1365号、昭63.3.14基発150号)。三菱樹脂事件・最大判昭48.12.12労判189号16頁も、同条は、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解されるとしている。
上記解釈例規及び判例は、就業規則等において国籍等を解雇の条件及び理由として定めることが労基法3条違反になるとするものであるが、そのような規定がない中で、使用者の解雇の意思表示が国籍等を理由とするものである場合も同条に違反するといえるのであろうか。
厚労省『労基法上』81頁は、上記解釈例規(及び判例)について、解雇の意思表示そのものは労働条件とはいえないが、労働協約、就業規則等で解雇の基準又は理由が規定されていれば、それは労働するに当たっての条件として本条の労働条件となるという趣旨であるとしつつ、このように明白に基準が定められていない場合でも、使用者が一定の基準を定めて解雇したと認められる場合は、右の場合と同様労働条件に含まれると解すべきであり、その点については、多数の解雇の場合であると一人の解雇の場合であるとを問わないとしている。有斐閣『注釈労基法上』94頁は、厚労省の当該見解について、解雇の意思表示自体が労働条件に当たるとする説と実質的な違いがないとしている。したがって、当該見解は、就業規則等の明確な規定がなくても、使用者の解雇の意思表示の理由が本条の労働条件に含まれると解するものであると考えられる。
日立製作所事件・横浜地判昭49.6.19労判206号46頁は、在日韓国人である労働者に対する氏名及び本籍の詐称を理由とした内定取消及び懲戒解雇について、使用者の真の解雇理由が労働者の国籍にあったとしたうえ、内定取消及び懲戒解雇が労基法3条に抵触し、公序に反し無効であるとした(民法90条)。
仮に、国籍等を理由とする使用者の解雇の意思表示が本条に違反するといえないとしても、国籍等を理由とする解雇に客観的合理的理由があるとはいえず、解雇権濫用法理(労契法16条)により無効であろう。