Case552 試用期間満了による本採用拒否が認められる範囲はそれほど広いものではないとした事案・ライトスタッフ事件・東京地判平24.8.23労判1061.28
(事案の概要)
原告労働者は、被告会社と試用期間3か月の無期雇用契約を締結し、保険外交員として勤務していました。原告は、会社代表者からの受動喫煙を理由に体調不良を訴えました。代表者は、原告に対して、自主退職するか、即時解雇されるか、1か月休職するかの選択を求め、原告は休職を選択しました。休職中、代表者は原告に対して退職承諾書を郵送して再度退職勧奨をしました。これに対して、原告は、予約が満杯で専門病院での受診をまだ受けていないこと、診察結果が出るまでは連絡をしないこと、送られた書類は返送できないことを回答しました。それを聞いた代表者は、その日のうちに原告に対して本採用拒否通知を発送し、その後原告から診断書が提出されることなく試用期間が満了しました。
本件は、原告が会社に対して本採用拒否の無効を主張して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、試用期間による解約権留保の趣旨は、試用期間が試用労働者に対する実験・観察のための期間であることにかんがみ、当該試用労働者の資質・性格・能力などの適格性について後日における調査や観察に基づく本採用の最終的決定を留保することにあるとしました。そのうえで、試用労働者の適格性判断は、考慮要素それ自体が余りに抽象的なものであって、常に使用者の趣味・嗜好等に基づく恣意が働く恐れがあるとして、留保解約権の行使は、実験・観察期間としての試用期間の趣旨・目的に照らして通常の解雇に比べ広く認められる余地があるにしても、その範囲はそれほど広いものではなく、解雇権濫用法理の基本的な枠組を大きく逸脱するような解約権の行使は許されないとしました。
判決は、原告は休職合意に伴う誠実義務の一環として、使用者である会社に対し、適宜本件休職の原因となった自らの体調(病状)とその回復具合のほか、受動喫煙との関係ないしはその診断結果等について報告する義務を負っていたが、これを怠ったとして、本採用拒否には客観的合理的理由があるとしました。
もっとも、社会通念上の相当性について、その有無は、解約権の留保の趣旨・目的に照らしつつ、①解約理由が重大なレベルに達しているか、②他に解約を回避する手段があるか、③労働者の側の宥恕すべき事情の有無・程度を総合考慮することにより決すべきものと解されるとしたうえ、原告の対応の背景には、営業マンとしての能力や受動喫煙等をめぐる代表者との確執、代表者の原告に対する強引な退職勧奨と事務室からの事実上の締め出し行為等が伏在しており、これらの事情が原告から代表者に対する病状報告等適切なコミュニケーションをとる機会を奪い、原告の対応を惹起させる原因の一つになっていたともみることができ、してみると原告の対応それ自体は、原告が保険営業マンとしての資質、能力等に大きな問題を有していることを必ずしも十分に推認させるものではなく、解雇事由として重大なレベルに達して板と認めるには十分でなく、また労働者である原告には宥恕すべき一定の理由も存在していたとして、本件解雇は社会通念上の相当性を欠き無効であるとしました。
※控訴