【不当解雇、契約締結上の過失、損害賠償】Case577 採用の勧誘をうけたため前職を退職し職を失ったことにつき逸失利益の賠償を認めた事案・かなざわ総本舗事件・東京高判昭61.10.14金融商事判例767.21

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社から幹部社員としての採用の勧誘を受けました。原告は、被告会社へ入社するため、当時取締役・総務部長として勤めていた前職を退職することとし、被告会社はそのことを認識しながらこれを制止しなかったため、原告は前職を退職しました。その後、被告会社は原告の採用を拒否しました。

 本件は、原告が被告会社に対して、契約締結上の過失を主張して、職を失ったことに対する損害賠償を請求した事案です。

 労働契約成立の主張は排斥されています。

(判決の要旨)

 判決は、「契約締結の準備段階であっても、その当事者は、信義則上互いに相手方と誠実に交渉しなければならず、相手方の財産上の利益や人格を毀損するようなことはできる限り避けるべきである。特に本件は雇傭契約の締結をめぐっての準備段階とはいっても、控訴人会社が被控訴人を幹部社員として迎えるかどうかであって、両者の信頼関係は通常の契約締結準備段階よりも強かったことはさきに認定したとおりである。したがって、右準備段階での一方の当事者の言動を相手方が誤解し、契約が成立し、もしくは確実に成立するとの誤った認識のもとに行動しようとし、その結果として過大な損害を負担する結果を招く可能性があるような場合には、一方の当事者としても相手方の誤解を是正し、損害の発生を防止することに協力すべき信義則上の義務があり、同義務に違背したときはこれによって相手方に加えた損害を賠償すべき責任があると解するのが相当である。」としました。

 そして、信義則違反に基づき被告会社に対して逸失利益200万円及び慰謝料100万円(過失相殺後の額)の支払いを命じました。

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