【不当解雇、契約締結上の過失、損害賠償】Case579 待遇面で合意できず雇用契約締結に至らなかったことについて契約締結上の過失が認められた事案・ユタカ精工事件・大阪地判平17.9.9労判906.60
(事案の概要)
銀行で支店長等を歴任していた原告労働者は、被告会社から経営再建への協力を要請され、被告会社への転職を決意しましたが、被告会社から待遇の話はありませんでした。原告が銀行に退職届を提出した後、被告会社は、原告に対して月額30万円未満しか給与を支払うことができないと述べましたが、これは原告が想定していた半分以下の水準でした。結局、待遇面で合意に至らず、被告会社は原告に対して、採用することはできない旨告げました。
本件は、原告が被告会社に対して、契約締結上の損害を被ったとして損害賠償の支払いを求めた事案です。
なお、雇用契約成立の主張は排斥されています。
(判決の要旨)
判決は、被告会社が原告に対し、被告会社への入社と再建への協力を依頼した時点で、原告は銀行に勤務しており、原告が被告会社に入社するためには、就職先を退職する必要があり、仮に原告が就職先を退職した後に、原告と被告会社との間の雇用契約が締結できなくなった場合は、原告は職を失うことになるのであるから、このような事情を認識できた被告会社としては、相手方である原告がそのような状況に陥ることのないよう、雇用条件などを事前に伝え、相手方である原告において、勤務先を退職してまで、被告会社との雇用契約を締結するべきかどうかを考慮する機会を与え、また、仮にそのような状況に至った後の場合であっても、できるだけ損害が少なくなるよう、早期に、その後の対処方法を考慮する機会を与えるべきであるとしました。
そして、被告会社は、原告を一定の条件(30万円未満の給与)でしか採用することができないという判断に至った時点で、原告に対し、その旨を告げる必要があり、これを怠った被告会社には信義則上の義務違反が認められるとし、慰謝料120万円(ただし、2割過失相殺し、96万円)を認めました。
※控訴