【不当解雇】Case590 上司に対して暴行・脅迫をした労働者に対する普通解雇が無効とされた事案・鹿島建設事件・東京地判令6.10.22労判1328.46【労働弁護士が選ぶ今日の労働裁判例】
事案の概要
原告Xは被告Y社の従業員であり、事務職として複数の支店で勤務した後、課長に就任した人物です。
令和3年8月2日頃、Xは本件工事事務所内において、上司であるC所長に対し、経費精算処理の遅延について強い口調で処理を求め、その後、「暴れるぞ、お前」、「殺すぞ、お前、本当に」などと脅迫的な発言をした上で、C所長の顔面を叩き、頭を触り、肩をつかむなどの暴行に及び、この際、「お前人間なのか」、「お前頭おかしいな本当に」、「バカじゃねえか、お前」といった人格否定的な発言も繰り返したとされています。また、これ以外にも、平成29年以降、上司や部下等に対し粗暴な言動が見られ、過去に訓告(懲戒ではない)を受けたり、支店間の異動がされたりといった経緯がありました。
Y社は、これらのXの行為を理由として、Xに対し普通解雇を行いました。当該普通解雇の有効性が争点となりました。
判決の要旨
判決は、Xの請求を認め、本件解雇を無効と判断しました。
判決は、他の労働者に対する暴行等により職場の秩序を乱し、他の労働者の勤務環境を害した労働者を解雇するには、問題となる解雇事由が直ちに労働契約の継続を期待することができないほどの重大な事情であることを要し、そのような程度に至らない解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められず、無効であるとの規範を示しました。
本件におけるXの行為については、上司であるC所長に対し、強い語気で脅迫的な発言をした上で、顔面を叩くなどの暴行に及んだこと、C所長の人格を否定する発言を繰り返したことなどが認定され、これらの行為が職場の秩序に反し、C所長の勤務環境を害するものであることは明らかであるとしました。また、過去の言動歴から、Xの粗暴な言動は根深いものであることがうかがわれるとしました。
しかしながら、解雇が労働者にもたらす結果の重大性を考慮し、以下の諸点を挙げ、本件各解雇事由をもって、直ちに労働契約の継続を期待することができないほどの重大な事情があるとまでは認められないと判断しました。
①過去に発生した同種の不祥事(他の従業員に対する暴行)において、Y社は解雇ではなく厳重注意や注意にとどめており、直ちに労働契約を終了させるものとして取り扱われていないこと。
➁本件解雇までに懲戒処分はされておらず、訓告がされたにとどまること。
③人事上の降格等によって従前の行為の重大性を反省させるなどの措置もとられていないこと。
④配転による解雇回避の検討が十分に尽くされたとはいいがたいこと。
これらの事情から、本件解雇は客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないため、無効であると結論づけました。
※控訴
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