【解雇】Case598 懲戒解雇事由とされた事実の一部が認められないとして教員免許取上げ処分が取り消された事案・神奈川県・県教委(A学園)事件・横浜地判令6.11.6労判1330.25

私立学校教員が懲戒解雇されると、都道府県教育委員会から教員免許取上げ処分を受けることになります。処分を受けた教員は、懲戒解雇の理由とされた事実を争い、教員免許取上げ処分の取消しを求めることができるのでしょうか。

【事案の概要】

原告労働者Xは、学校法人A学園が運営する高等学校の教諭でしたが、女子生徒Cおよび女子生徒Dに対する個人的な連絡、会食、車両への同乗、性的関係を示唆する行為など、複数の不適切行為(本件各対象行為)を行ったとされ、学園から懲戒解雇されました。これを受け、被告である神奈川県教育委員会Yは、教育職員免許法第11条第1項に基づき、Xの教育職員免許状の取上げ処分(本件処分)を行いました。

Xは、この免許状取上げ処分が違法であるとして、その取消しを求め提訴しました。

本判決時、学園による懲戒解雇の有効性を争う別の訴訟も係属中でした。

【判決の要旨】

横浜地裁は、私立学校等の教員の免許状取上げ処分を行うには、当該教員が懲戒解雇されたこと、その懲戒解雇の事由が公立学校教員の懲戒免職事由に相当することに加えて、当該懲戒解雇事由に該当する事実が実際に存在することが必要であると判断しました。

そして、生徒C及びDに対する個人的な連絡や会食、車両への同乗といった行為(本件対象行為1、2、3、5、6)は存在を認めたものの、最も重大な「生徒Cに対し、手を握り、キスをし、性的な関係を求めることをほのめかした行為」(本件対象行為4)については、それを裏付ける証拠が一切提出されていないことや、生徒Cが事件後にXに感謝のメッセージを送るなど、その存在に相当程度の疑義が生じる事実があったことから、存在を認めるには足りないと判断しました。

また、残りの本件各対象行為(1~3、5、6)は、Yの懲戒処分の指針における免職事由である「わいせつな行為」や「セクシュアル・ハラスメント」には該当せず、公立学校教員の懲戒免職の事由に相当する事由には当たらないと結論付けました。したがって、本件処分は要件を欠き、違法であるとして取り消されました。

【まとめ】

・教員免許取上げ処分を受けた教員は、懲戒解雇の理由とされた事実を争い、処分の取消しを求めることができる

・教員免許取上げ処分には、当該事実の客観的な存在も行政庁が審査し認定する必要がある

・懲戒解雇の理由とされた事実が、公立学校教員の懲戒免職事由に相当するほどかどうかが問題となる

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