【解雇事件マニュアル】Q78普通解雇の理由にはどのような類型があるか

 普通解雇には、客観的合理的理由が必要である(労契法16条)。しかし、どのような事実が普通解雇の客観的合理的理由になるのか、普通解雇の根拠条文である民法627条1項にも、解雇権濫用法理を定めた労契法16条にも、一切規定されていない。

 このように、普通解雇の理由は法律上限定されていないため、形式的にはあらゆる事実が解雇理由になり得るが、労契法16条により、個々の解雇理由が客観的合理的理由といえるのか、解雇が社会通念上相当といえるのかが厳しく判断されることになる。

 もっとも、裁判例が積み重なった結果、解雇理由について一定の類型化がなされている。解雇の合理的理由は、一般に、①労働者の労働能力の欠如(例えば病気・けが〔私傷病〕による就労不能、勤務成績不良、職務を遂行する適格性の欠如など)、②労働者の規律違反行為(例えば遅刻・早退・欠勤、勤務態度不良、その他職場秩序〔企業秩序〕に反する非違行為など)、③経営上の必要性(例えば経営難で余剰人員が発生していることなど)という大きく3つの類型に分けられるとされている(水町『詳解労働法』1008頁。菅野ら『労働法』749~750頁も概ね同様の類型化をしている。)。

 このうち、③は整理解雇に当たるため、いわゆる「普通解雇」の理由は、大きく①労働能力の欠如と②規律違反行為の2つの類型に分けることができる。なお、特殊な類型として④ユニオン・ショップ協定に基づく非組合員の解雇がある。

 ①労働能力の欠如と②規律違反行為は相対的で重なる部分もある。例えば、重要な経歴の詐称は、②規律違反行為と評価することもできると思われるが、これによる信頼関係の喪失という意味では①労働能力の欠如と評価することもできる(菅野ら『労働法』749~750頁参照)。菅野ら『労働法』750頁は、②規律違反行為の内容は、懲戒事由とほぼ同様であり、②の類型を、懲戒処分がなされるかわりに普通解雇がなされた場合であると整理している。②規律違反行為は、普通解雇の理由にも懲戒解雇の理由にもなり得るといえる。

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