【ハラスメント】Case615 従業員間で起きた無断撮影について撮影者及び会社の責任が認められ事後対応について会社独自の責任が認められた事案・ガソリンスタンドA社ほか(盗撮)事件・鳥取地倉吉支判令7.1.21労判1333.45
職場で起きた労働者間の無断撮影について、無断撮影された労働者は、撮影した労働者や会社に対して損害賠償請求することができるのでしょうか。
【事案の概要】
原告労働者X(女性)と被告労働者Y1(男性)は、被告Y2社の従業員として勤務していました。
Y1は2022年7月から8月にかけての6日間、勤務中に自己のスマートフォンを用いてXの姿を無断で撮影しました。XはY1の行動に不審感を抱き、防犯カメラの映像で無断撮影を知りました。XはY1の行動が理解できず、上司に相談しましたが解決せず、2022年9月13日に心身症と診断され、同年9月15日から休職しました。
Y2社はハラスメント防止に関するポスターを掲示していましたが、業務上の必要性から従業員の勤務中のスマートフォン使用を禁止していませんでした。Y2社はXからの報告を受け、防犯カメラ映像を確認したものの、Y1への事実確認をすぐには行いませんでした。これは、Xが衣服を着用していたことから盗撮事件とまでは捉えず、以前の類似事案で加害従業員が退職した経験からY1の退職を避けようと慎重に対応したためでした。Y2社はY1またはXの配置転換も検討しましたが、調整がつかず保留となりました。
事態が解決しないため、Xは2023年以降、法務局、労働局、法テラスなどに相談しました。2023年3月、Y1は警察の事情聴取に対し無断撮影を認めました。Y2社は、2023年4月頃に労働局からの連絡でXの不満を把握し、同年5月20日に初めてY1に対し事実確認を行いましたが、Y1は当初虚偽の説明をしました。Xの弁護士からの損害賠償請求を受け、再度確認したところ、Y1は性的目的を否定しつつ撮影行為を認めました。Y2社は、Y1には厳重注意等の処分を行うが配置転換はしない旨をXに通知しました。
本件は、XがY1及びY2社に対して損害賠償請求した事案です。
【判決の要旨】
⑴ Y1の責任
判決は、「人は、みだりに自己の容ぼう等を撮影されないことについて法律上保護されるべき人格的利益を有するところ、ある者の容ぼう等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである」という最高裁判例を引用した上、Xは一般人で、同僚から無断で勤務中の姿を撮影されることなど通常は想定も許容もしないものであり、6日間にわたってXの姿を近い距離から繰り返し無断で撮影したY1の撮影行為は、その態様において著しく不相当であり、撮影の必要性も認められないとしました。そして、Y1の撮影行為について、Xの人格的利益を侵害する不法行為に該当すると判断しました。
Y1の行為によるXの損害については、Xが休職するまでの約2か月間について相当因果関係が認められ、それ以降の損害はY2社の対応の不満や問題が解決しない状況が主要なストレス要因であったとして、Y1の不法行為との相当因果関係は否定されました。Xには精神的苦痛に対する慰謝料40万円、治療関係費、休業損害などが認められました。
⑵ Y2社の責任
ア Y1の行為についての使用者責任
Y1の撮影行為については、職場の人間関係を契機とし、職場上の地位や環境を利用して行われたものであり、Y2社の事業の執行についてなされたものとして使用者責任が認められました。上記Y1の賠償義務についてY2社も連帯して賠償義務を負うとされました。
イ Y2社独自の責任
Y2社の安全配慮義務違反については、Y1の撮影行為以前の防止措置の怠りについては否定されました。
しかし、Y1の撮影行為以降のY2社の対応については、不適切な認識の下で事実確認を怠り、Xに対する適切な配慮を欠いたものであり、労働契約上の付随義務に違反したと認められました。Y2社のこの義務違反によってXが被った精神的苦痛に対し、慰謝料40万円が認められました。
※確定
【まとめ】
・職場内での労働者の無断撮影は、労働者の人格権を侵害する不法行為に当たる場合がある。
・使用者は、従業員間で起きた無断撮影について使用者責任を負うことがある。
・従業員間で起きた無断撮影について事後対応の悪さから使用者に安全配慮義務違反が認められることがある。