【解雇事件マニュアル】Q50有期労働契約に付された試用期間は有効か
有期労働契約の契約期間のうち、更にその一部が試用期間とされている場合がある。このような有期労働契約に付された試用期間は有効か。
契約期間中の解雇は、労契法17条1項という強行法規により、「やむを得ない事由」がある場合にのみ許される。有期労働契約に試用期間を付し、契約期間中に留保解約権の行使を認めて緩やかな解雇を許容することは、労契法17条1項の趣旨に抵触するようにも思える。
東京高判令5.4.5判タ1516.88は、有期労働契約における解雇は、労働契約法17条1項の「やむを得ない事由」がある場合にのみ許されるところ、本件は、有期労働契約に設けられた試用期間中の解雇(留保解約権の行使)であるから、試用期間経過後の留保解約権の行使が認められる客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認され得るという基準に加え、有期労働契約における解雇に要求される上記「やむを得ない事由」があることをも要するものと解されるとした。
また、リーディング証券事件・東京地判平25.1.31労経速2180号3頁は、有期労働契約における留保解約権の行使は、使用者が、採用決定後の調査により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、そのような事実に照らし、①その者を引き続き当該企業に雇用しておくことが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であること(労契法16条。)に加え、②雇用期間の満了を待つことなく直ちに雇用を終了させざるを得ないような特別の重大な事由が存在するものと認められる場合(労契法17条1項。)に限り適法となるものと解されるとした。
このように、裁判例は、有期労働契約に付された試用期間も有効であるとしたうえ、解約留保権の行使に当たっては、労契法17条1項の「やむを得ない事由」があることを要するとしている。
なお、前掲東京高判令5.4.5は、ただし、本件で試用期間が設けられた(解約権が留保された)趣旨にも鑑み、また、試用期間中の解雇ではあるものの、上記「やむを得ない事由」の存否の判断は若干緩やかに行うことが相当であるとしている。
有期労働契約に付された試用期間を一部無効とした裁判例もある。前掲リーディング証券事件は、労働契約期間は、労働者にとって雇用保障的な意義が認められ、かつ、今日では祖の強行法規性が確立していること(強行法規的雇用保障性)に鑑みると、有期労働契約における試用期間の定めは、契約期間の強行法規的雇用保障性に抵触しない範囲で許容されるものというべきであり、当該労働者の従業員としての適格性を判断するのに必要かつ合理的な期間を定める限度で有効と解するのが相当であるとした。そして、日本語に堪能な韓国人証券アナリストとして即戦力となり得ることを期待して雇用期間1年間のうち6か月の試用期間を定めた当該事案において、6か月という期間自体、試用期間の定めとしてはかなり長い部類に属する上、当該労働者が上記の意味で即戦力たり得るか否かは、一定の期間を限定して、個別銘柄等につきアナリストレポートを作成、提出させてみれば容易に判明する事柄であって、その判定に要する期間は、多くとも3か月間もあれば十分であると考えられるとして、試用期間の定めは試用期間3か月間の限度で有効と解され、当該使用者は、その期間に限り留保解約権を行使し得るとした。