Case559 PIPを経て行われた能力不足解雇が十分な指導・教育が行われていないとして無効とされた事案・華為技術日本事件・東京地判令6.3.18労経速2563.20

(事案の概要)

 原告労働者は、情報通信機器の開発等を行う被告会社に月給60万円のデジタルマーケティングマネージャーとして中途採用され、2018年8月から勤務を開始しました。

 会社は、2019年9月から同年10月までの期間、原告に対して業務改善計画(PIP)を実施しました。そして、PIPで原告が多くの項目について目標を達成できず、PIP終了後にも任務懈怠があったとして、同年11月から2020年3月までの間原告に対して退職勧奨を行ったうえ、同月13日付けで原告を普通解雇しました。

 本件は、原告が会社に対して解雇の無効を主張し、雇用契約上の地位の確認等を求めた事案です。

 損害賠償やPIPの差止めも求めましたが否定されています。

(判決の要旨)

 判決は、原告には責任感やチームで業務遂行する上で必要な協調性、分析や考察を加える能力の欠如を窺わせる事情や、デジタルマーケティングにおける専門的能力の発揮が求められる従業員の適格性を疑わせる事情があり、会社がPIPを実施したことは相当であったとしました。

 しかし、PIP期間を終えて退職勧奨に踏み切る前に、会社において求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す余地があり、例えば、PIP実施の過程で原告と上長との面談等がどの程度行われ、会社が原告に求める業務改善の具体的内容について原告との間で共有されていたのか、PIP実施中の原告の取り組みにつきどのようなフィードバックがされていたのか等の詳細が明らかでないとしました。

 そして、原告はデジタルマーケティングの経験者として中途採用されたとはいえ、管理職ではない1担当者にすぎず、給与水準もそれなりに高いとはいえ、会社内部における相対的位置付けは明らかでないこと、入社からそれほど長い期間を経過していたわけではないことにも鑑みれば、上記のような指導、教育が十分に行われた事実が認められないにもかかわらず、能力不足を理由に行われた本件解雇は客観的合理的理由があり社会通念上相当であるとはえず無効であるとしました。

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