【解雇事件マニュアル】Q67契約締結上の過失とは

 採用内定や採用内々定が労働契約に当たらない場合、労働者は使用者による一方的な内定取消し又は内々定取消しの責任を問えないのであろうか。

 採用内々定や採用内定など労働契約の締結に至る過程で、なお労働契約が成立しておらず契約上の権利に基づく請求が認められない段階でも、契約の締結過程で形成された相手方の信頼を損ないその法的保護に値する利益を侵害したといえる場合には、契約締結過程における信義則違反(契約締結上の過失)として、不法行為(民法709条)に基づき使用者に損害賠償責任が課されることがある(水町『詳解労働法』500頁)。

 コーセーアールイー(第2)事件・福岡高判平23.3.10労判1020号82頁は、使用者が経営状態や経営環境の悪化を認識しながら新卒者採用を断念せず、新卒者に対して採用内々定を出し採用内定通知書交付の日程調整を行っておきながら、そのわずか数日前に事業計画の見直しという極めて簡単な理由で内々定取消しを行い具体的理由の説明を行わなかったという事案で、内々定取消しの時点において労働契約が確実に締結されるであろうとの新卒者の期待は、法的保護に十分値する程度に高まっており、使用者の内々定取消しは、労働契約締結過程における信義則に反し、新卒者の上記期待利益を侵害するものとして不法行為を構成するから、使用者は、新卒者が使用者への採用を信頼したために被った損害について、これを賠償すべき責任を負うとした。そして、使用者に対して慰謝料50万円の支払いを命じた。

 その他にも、契約締結上の過失を認めた裁判例が複数存在する。

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