【不当解雇、契約締結上の過失】Case581 学部新設のための教員審査に合格した労働者を不採用としたことが不法行為に当たるとした事案・学校法人東京純心女子学園(東京純心大学)事件・東京地判平29.4.21労判1172.70
(事案の概要)
原告労働者ら2名は、被告学校法人から、A学部設置への協力や同学部教員としての採用を打診され、これに協力することとしました。原告1は、A学部設置前の1年間、職場の大学から被告法人への出向の形で、A学部設置準備室特任教授に就任していました。被告法人は、原告らを設置認可手続上教員審査の対象とし、原告らから教員就任承諾書の提出を受けていました。
被告法人は、A学部設置の認可を受けたものの、同学部設置の約2か月前に、原告1に対して出向契約を終了する旨の通知を、原告2に不採用の通知をしました。
本件は、原告らが被告法人に対して、契約締結上の過失に基づく損害賠償を請求した事案です。
なお、原告らの採用内定が成立している旨の主張は退けられています。
(判決の要旨)
1 原告1
判決は、原告1が被告法人のA学部設置にむけて勤務し、原告1を教員とする教員審査において、原告1を教員として採用しない旨の指摘を受けてはいないことから、被告法人のA学部新設が認可された後においては、原告1と被告法人との間で、教員名簿記載の科目を担当する教授としての労働契約が確実に締結されるであろうとの原告1の期待は法的保護に値する程度に高まっていたとしました。
そして、被告法人が、学部設置認可に至るまで、原告1に対し、その働きぶりに対して注意等をしていないところ、教員審査を経たにもかかわらず、面接等の採用手続きすら執らないとしたのは、誠実な態度とはいい難く、被告法人が原告1を採用しなかったことは、労働契約締結過程における信義則に反し、原告1の期待を侵害するものとして不法行為を構成するから、被告法人は、原告1が被告法人への採用を信頼したために被った損害についてこれを賠償すべき責任を負うとしました。
損害としては、慰謝料50万円を認めました。
2 原告2
判決は、原告2を講師とする教員審査の合格や勤務(内定)証明書の交付を通じて、被告法人のA学部新設が認可された後においては、原告2と被告法人との間で同証明書記載の待遇で労働契約が確実に締結されるであろうとの原告2の期待は法的保護に値する程度に高まっていたとしました。
そして、不明確な理由で、教員審査に合格した原告2を不採用とすることは、誠実な態度とはいい難く、被告法人が原告2を採用しなかったことは、労働契約締結過程における信義則に反し、原告2の期待を侵害するものとして不法行為を構成するから、被告法人は、原告2が被告法人への採用を信頼したために被った損害についてこれを賠償すべき責任を負うとしました。
損害としては、慰謝料50万円を認めました。
※控訴後取下げ