【解雇事件マニュアル】Q70 契約締結上の過失における過失相殺の内容は

 労働契約締結前に労働者が前職を退職してしまった場合、労働者にも一定の過失があったとして過失相殺がなされる例が多い。

 かなざわ総本舗事件・東京高判昭61.10.14金融商事判例767号21頁は、労働者が契約準備段階で前職を退職し職を失った事案で、前職の賃金相当額の逸失利益を認めつつ、労働者としても、契約準備段階で前職を退社する必要は必ずしもなかったというべきであり、使用者と書面で契約を確認し合うとか、少なくとも使用者の言葉の正確な意味を確かめてから最終的に退社したとしても、雇用契約の成立にはなんら支障はなかったものであり、退社したことによる損害については労働者の過失に起因するところが大であり、その過失割合は労働者側約7割強、使用者側約3割弱とするのが相当であるとした(慰謝料100万円については過失相殺がされていない。)。前掲フォビジャパン事件も、同様の事案で、被告から書面等による正式な採用の通知はなされておらず,原告においても,採用に至るには二次面接が必要であることを認識していた以上,原告が,それまでの待遇を上回る条件で被告に採用されることが確実であると認識したことについて過失が認められることは否定できないこと、もっとも,(従業員採用に関する権限を制限されているとはいえ)被告の代表取締役が,採用に関し確度の高い発言をしたものと評価されること,それまで複数存在した前職からの転職者について二次面接により転職が頓挫した事例は存在しなかったことに照らすと,原告の過失が大きいとはいえず,原告の過失割合を2割とするのが相当であるとした。

 ユタカ精工事件・大阪高判平17.9.9労判906号60頁は、使用者が、労働者が想定しているであろう給与に比べると、著しく低額である金額の給与でしか雇用契約を締結することはできないと判断するに至ったにもかかわらず、これを労働者に告げず、放置した契約締結上の過失を認めた事案である。同判決は、労働者には、当初、使用者から入社の時期について尋ねられても「おう行くがな」と答えるだけで、具体的な返答をせず、使用者への入社を明確に告げ、条件などについて協議することを求めようとせず、放置した過失があり、前職と同程度の給与は支給されるであろうとの期待は労働者の勝手な推量というほかないとして、労働者の過失割合を2割とした。

 一方で、わいわいランド(解雇)事件・大阪高判平13.3.6労判818号73頁は、被告会社が中途採用の過程で予定していたZ社からの業務委託を受けることができなかった事案で、原告らが雇用契約の締結、継続を信頼したことに過失がある旨の被告の主張について、被告がZ社との間の問題を軽視し原告らに説明していなかったことなどから、原告らに賠償額を斟酌すべき程度の落ち度があるとは到底いえないとした。

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