【解雇事件マニュアル】Q79就業規則上の解雇事由は限定列挙か例示列挙か
解雇事由は就業規則に列挙されていることが多い。「解雇の事由」は、就業規則の絶対的記載事項とされている(労基法89条3号)。就業規則に解雇事由が列挙されている場合、これが、列挙されていない事由での解雇を許さない限定列挙なのか、列挙されていない事由での解雇も許す例示列挙なのかが問題となる。
解雇権濫用法理が解雇の自由を基礎としてこれを制限する理論であることを根拠に例示列挙説に立つ学説もある。ウエストミンスター銀行(第3次仮処分)事件・東京地決平12.1.21労判782号23頁も、「現行法制上の建前としては、普通解雇については解雇自由の原則が妥当し、ただ、解雇権の濫用に当たると認められる場合に限って解雇が無効になるというものであるから、使用者は、就業規則所定の普通解雇事由に該当する事実が存在しなくても、客観的に合理的な理由があって解雇権の濫用にわたらない限り雇用契約を終了させることができる理である。そうであれば、使用者が、就業規則に普通解雇事由を列挙した場合であっても、限定列挙の趣旨であることが明らかな特段の事情がある場合を除き、例示列挙の趣旨と解するのが相当である。」とし、原則として例示列挙と解すべきであるとした。
しかし、菅野ら『労働法』767頁は、この問題は、個々の就業規則の定めの合理的解釈の問題であるとした上、「解雇の事由」を就業規則上必ず明示すべきものとした2023年労基法改正の趣旨に合致することを理由に、使用者が就業規則に解雇事由を列挙した場合は、通常は、使用者が、労働契約上、解雇権限を行使できる場合を自らそれら事由に限定したものとして、列挙された以外の事由による解雇は許されないこととなろうとし、原則として限定列挙と解すべきであるとしている。
水町『詳解労働法』1005頁は、この問題が個別具体的な事案に応じた契約の解釈の問題であることを強調し、より中立的な立場を採っている。そして、例えば、就業規則上包括的な形で解雇規定を整備しようという趣旨で解雇事由が記載された場合には、そこに列挙された事由がある場合にのみ解雇は可能であるという限定列挙の趣旨で就業規則規定が定められたものと解され、他方で、解雇事由を包括的に定めるのではなく、解雇の例を散発的に定めるという例示列挙の趣旨で解雇事由の記載がなされた場合には、そこに列挙されていない事由での解雇の自由の行使を妨げるものではないと解されるとしている。もっとも、水町『詳解労働法』1004~1005頁は、多くの裁判例では、限定列挙と位置づけて就業規則上の解雇事由の存否そのものが争点とされており、列挙された解雇事由の不存在と解雇権濫用とを直結させる判断をしていると指摘している。
労働者としては、就業規則に解雇事由が列挙されている以上、限定列挙の趣旨であると主張することになるであろう。
このように、限定列挙か例示列挙かという争いはあるものの、実際上はほとんどの就業規則において、「その他前各号に掲げる事由に準じる重大な事由」のような包括的条項があり、あらゆる事由が解雇事由になり得る規定になっていることが多いため、そのような場合には解雇事由が限定列挙か否かはあまり問題とならない。