【不当解雇】Case625 金銭の横領や業務中の私的取引を理由とする懲戒解雇がいずれも無効とされた事案・福住不動産事件・東京高判令7.3.27労判1336.5
【事案の概要】
原告労働者X1及びX2は、不動産会社である被告Y社と期間の定めのない雇用契約を締結していましたが、それぞれ以下の理由で懲戒解雇されました(後に予備的に普通解雇)。Y社は、帳簿上使途不明金となっている金員数千万円について、全てXらが横領したと主張していました。
(X1の解雇理由)
①Y社の許可なく業務用パソコンを用いて業として医薬品等の物品販売を行った(本件取引)
②物品販売に関するものを含む私的な領収書をY社に提出した
③Y2と共謀して銀行預金ないし現金を横領した(③は後に撤回)
④本件一審において虚偽の供述をした(一審尋問後に新たな解雇として追加)
(X2の懲戒解雇理由)
①Y社の銀行預金口座からの預金払い戻しによる横領
②顧客から預かった仲介手数料の横領
③私的な領収書をY社に提出した
④Y社に無断でY社名義のX1に関する在職証明書を発行した(後に追加された普通解雇事由)
【判決の要旨】
1 X1に対する懲戒解雇および普通解雇の有効性
判決は、以下のとおり述べて、X1に対する懲戒解雇及び普通解雇をいずれも無効としました。
①物品販売について
X1の就業時間中に業務用パソコンを用いて個人的に医薬品等の販売を行った行為は、就業規則に違反するといえるものの、X1が就業時間中に本件取引に費やした時間の程度は明らかでなく、本件取引によって業務に具体的な支障が生じたり、企業秩序を著しく乱したなどといった特段の事情も見出しがたく、X1が懲戒解雇に先立って懲戒処分を受けた形跡もないことなどの事情を総合すれば、懲戒解雇事由に該当しないとしました。
②私的な領収書の提出
X1が私的な領収書をY社に提出していたのは、法人としての経費を増やすことで税務処理上のメリットを得るとして、社長が従業員らに対して、個人で利用した領収書でもよいのでY社に提出するよう求めたことに起因するものであり、懲戒解雇事由には当たらないとしました。
④虚偽の供述について
X1があえて記憶と異なる供述をしたものと断じ得るに足りる的確な証拠はないとして、懲戒解雇事由や普通解雇事由に該当しないとしました。
2 X2に対する懲戒解雇および普通解雇の有効性
判決は、以下のとおり述べて、X2に対する懲戒解雇及び普通解雇をいずれも無効としました。
①②横領
Y2が預金や現金を横領した事実は認められないとしました。
③私的な領収書の提出
X1と同様、懲戒解雇事由に当たらないとしました。
④在職証明書の発行
X2が在職証明書を作成した事実は認められないとしました。
※確定