【解雇事件マニュアル】Q90二重処罰に当たる懲戒解雇は許されるか

1 再度の懲戒処分の場合

 過去に懲戒処分の理由とされた事由を理由として労働者を懲戒解雇することは許されるか。例えば、遅刻を理由に降格の懲戒処分が行われた後、同じ遅刻を理由に労働者を懲戒解雇することは許されるか。

 懲戒処分は、企業秩序違反行為に対する特別の制裁措置であるから、罪刑法定主義類似の原則が適用され、同じ事由について繰り返し懲戒処分を行うことは原則として許されない(一事不再理の原則または二重処罰の禁止、水町『詳解労働法4版』618頁)。

2 同時の懲戒処分の場合

 1つの懲戒事由に対して、軽い懲戒処分と懲戒解雇を同時に行うことは許されるか。例えば、1つの遅刻を理由に、懲戒処分として労働者を降格させると同時に、労働者を懲戒解雇することは許されるか。

 このように、1つの懲戒事由に対して複数の懲戒処分を同時に行うことも原則として禁止される(水町『詳解労働法4版』618頁)。

3 二重処罰の禁止の例外

 もっとも、一方の措置(上記の各例でいえば降格)が、懲戒処分ではなく、人事上の措置によるものであれば、そもそも二重処罰に当たらない。

 また、1つの懲戒事由該当行為に対して複数の懲戒処分を科すことがあることを就業規則上あらかじめ定めている場合には、罪刑法定主義において法律上の併科の明記が認められていることと同様に、一事不再理の原則には反しないものと解される(水町『詳解労働法4版』619頁)。

 「過去に処分を受け改悛の見込みがない場合」との懲戒事由が定められている場合、過去に処分を受けたこと自体を懲戒事由とすることは一事不再理の原則に反するが、労働者に反省する態度がみられず将来同様の行為を繰り返すおそれが現実に存在する場合には、その限りでこれを懲戒事由として処分を行うことができる(水町『詳解労働法4版』619頁)。

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