【解雇事件マニュアル】Q91 適正手続を欠く懲戒解雇は無効か

 使用者が懲戒処分を行うには労働者に弁明の機会を与えるなど適正な手続を踏むことが必要であるとされるが、適正な手続を欠いて行われた懲戒解雇は直ちに無効になるのであろうか。

1 手続規定がある場合

 労働協約や就業規則に、懲戒処分を行うに当たって労働組合との協議や懲戒委員会(賞罰委員会)の開催等の手続を経ることが規定されていて、これが労働契約の内容となっている場合には、その手続を経ずに行われた懲戒処分は原則として無効となる(水町『詳解労働法4版』619頁)。

2 手続規定がない場合

 就業規則等に懲戒手続の規定がない場合でも、懲戒処分は、企業秩序違反行為に対する特別の制裁措置であるから、罪刑法定主義類似の原則が適用される。そして、労働者に弁明の機会を与えることは最も重要な手続とされており、事実関係が明白で疑いの余地がないなど特段の事情がない限り、労働者に懲戒事由を告知して弁明の機会を与えることなく行われた懲戒処分は無効であるとされている(水町『詳解労働法4版』619頁)。

 仮に、弁明の機会を与えていないことが直ちに懲戒処分の無効を基礎付けないとしても、弁明の機会を与えていないことは、懲戒権の濫用(労契法15条)を基礎付ける重要な事情となるであろう。

3 法律構成

 適正手続を欠いていることは、労契法15条の懲戒権の濫用の判断の中で総合考慮の一要素とされることが多い。

 水町『詳解労働法4版』620頁は、制裁罰である懲戒処分の適正手続そのものの重要性を考慮すると、権利濫用の判断とは独立して、手続の瑕疵は公序良俗(民法90条)に反するとして、懲戒処分は無効となると解釈することが考えられるとしている。

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