【解雇事件マニュアル】Q92 就業規則上の懲戒解雇規定の有効要件は

 就業規則上の懲戒解雇規定が有効になるためには、どのような要件を満たす必要があるか。

 労契法7条は、「労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」と規定している。

1 合理性

 まず、就業規則上の懲戒解雇規定が「合理的」であることが必要である(合理性)。「使用者が労働者を懲戒するには、あらかじめ就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する」(フジ興産事件・最二小判平15.10.10労判861号5頁)ことから、懲戒の種別と事由の具体的な定めがなく、単に使用者の懲戒権を抽象的に定めるだけの規定の場合、合理性は当然に否定されるであろう(竹村『懲戒の法律実務』61頁)。

 懲戒の種別と事由が定められている場合には、それらの合理性が審査されることになるが、懲戒処分について定めた就業規則規定の合理性については、企業秩序維持という観点からそのような規定を定める必要性があり、それが労働者の権利・利益を不相当に制限するものでないかが検討される(水町『詳解労働法第4版』613頁)。小川建設事件・東京地決昭57.11.19労判397号30頁は、就業時間外は本来労働者の自由であることを理由に、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き合理性を欠くとしている。

2 周知性

 次に、懲戒解雇を定めた就業規則が周知されていることが必要である(周知性)。周知の方法は、労基法106条1項を受けた労基則52条の2が定める①常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、②書面を労働者に交付すること、③使用者の使用に係る電子計算機に備えられたファイル又は第二十四条の二の四第三項第三号に規定する電磁的記録媒体をもつて調製するファイルに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること、に限られない。労働者が知ろうと思えば知り得る状態に置く「実質的な周知」で足り、労働者が現実的に内容を認識していたかは問わない(水町『詳解労働法』204,205頁)。

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