【不当解雇】Case632 解雇無効判決確定後1年以上に渡って労働者に自宅待機を命じたことが不法行為に当たるとされた事案・西日本総合保険事件・福岡高判令6.6.25労判1337.79
【事案の概要】
原告労働者Xは、被告Y社に雇用されていましたが、令和2年3月に整理解雇されました。訴訟において、令和4年6月、Xに対する解雇を無効とし、雇用契約上の地位を確認する判決が確定しました。
判決確定後の同年7月1日以降、Y社はXに対し、担当業務を整理するためとして本件自宅待機命令を1年以上に渡って継続的に発令し、その間、Y社はXに賃金規程に基づき平均賃金の60%以上の休業手当相当額のみを支払いました。Yは、Xが従前担当していた総務系内務職は整理解雇に伴い消滅しており、他の内務職(保険内務職やフロント職)は専門的な知識と研修が必要であり、研修体制が整っていないとして、Xの復職後の担当業務を速やかに決定できないとしました。
本件は、Xが、Y社に対して、休業手当と本来の賃金額との差額の支払いや損害賠償等を求めた事案です。
【判決の要旨】
1. 未払賃金請求
判決は、本件自宅待機命令は、Y社の業務上の必要性から自宅待機を具体的な労務として特定する業務命令と解すべきであり、Xは当該業務命令に基づく履行として自宅待機を行っているものであるから、Y社に対し、本件雇用契約に基づく全額の賃金請求権を有すると解すべきであるとしました。
また、仮に業務命令がないとしても、Y社がしたXの解雇は無効であったものであり、業務内容を整理してXの担当業務を整理するというY社の都合によりXの就労を拒否しているのであるから、民法536条2項により、Xは全額の賃金請求権を有するものと認められるとしました。
2.損害賠償請求
判決は、「自宅待機命令が業務上の必要性なく発せられた場合や、不当な動機・目的をもって発せられたような場合には、使用者の裁量を逸脱濫用するものとして違法と評価されるものと解され、使用者の裁量を逸脱濫用するものかどうかは、業務命令としての必要性、動機・目的、労働者に与える影響の程度等を総合的に考慮して判断されるべきである」としました。
その上で、本件自宅待機命令は、当初は業務上の必要性があったと認められるが、Y社が当初予定していた令和4年7月中には復職後の担当業務を伝えることができず、令和5年6月30日時点で1年にも及んでいたことを考慮すると、Y社はそれまでに検討を済ませ、Xを復職させていて然るべきであったとしました。
そして、本件自宅待機命令は、令和 5 年 7 月 1 日をもって、業務上の必要性を欠く違法なものとなっており、Xの雇用契約上の地位を脅かし、その人格権を侵害するものとして不法行為を構成するに至っているといわざるを得ないとして、慰謝料50万円を認めました。
※確定

