Case4 口外禁止条項を付した労働審判の違法性が認められた事案・国(口外禁止条項)事件・長崎地判令2.12.1労判1240.35

(事案の概要)

 原告が雇止めを争う労働審判において、会社は原告に解決金を支払う代わりに口外禁止条項を付すことを和解条件として提示しました。原告は、解決金の金額以外は同僚に伝えたいと希望し、期日で泣きながら「終わったということは伝えたい。同僚が励ましてくれて、それが精神的な支えになってきた。それを何もなしでは済まされないと思っている。」と述べました。

 会社が口外禁止条項を譲らなかったため、労働審判委員会は労働審判をしましたが、審判の条項には「本件に関し、正当な理由のない限り、第三者に対して口外しないことを約束する。」との口外禁止条項が付されていました。

 原告が労働審判に異議を申し立てなかったため、当該労働審判は確定しました。

 本件は、原告が、口外禁止条項を付した労働審判により表現の自由、思想良心の自由及び幸福追求権を侵害されたと主張し、国に対して国家賠償請求をした事案です。

(判決の要旨)

 判決は、労働審判は、事案の解決のために相当なものでなければならない(相当性の要件)とし、相当性の要件は、事案の実情に即した解決に資するかという点も考慮しつつ、申立ての対象である労働関係に係る権利関係と合理的関連性があるか、手続の経過において、当事者にとって受容可能性及び予測可能性があるかといった観点により判断すべきとしました。

 そして、上記の経過から、原告が明確に拒絶した口外禁止条項を定めても、原告がこれを受容する可能性はなく、口外禁止条項は手続の経過を踏まえたものとはいえず相当性を欠くとし、労働審判の違法性(労働審判法1条及び2条違反)を認めました

 もっとも、判決は、国家賠償請求が認められるためには、労働審判委員会等が違法又は不当な目的をもって審判をしたなど、その付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認めうるような特別の事情があることが必要であるとしたうえ、本件ではそのような特別の事情は認められないとして、原告の請求を棄却しました。

※確定

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