Case65 法人格否認の法理によりグループ会社及びグループ支配者の責任を認めた事案・黒川建設事件・東京地判平13.7.25労判813.15【百選10版2】

(事案の概要)

 原告労働者らは、被告会社のグループ会社であるA社を退職しましたが、賃金の一部が未払で、退職金も支払われていませんでした。

 被告会社の代表取締役である被告代表者は、グループの社主を称し、グループ各社を被告会社の一事業部門として扱い、被告会社の総務部や財務部を通じてグループ各社の人事や給与等の実質決定権を掌握し、A社の営業利益を被告会社に吸収させるなど、グループ各社を実質的に支配していました。

 原告労働者らは、A社に対する未払賃金及び退職金について、A社を実質的に支配していた被告会社及び被告代表者に対して請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、法人格が全くの形骸にすぎない場合、またはそれが法律の適用を回避するために濫用されるが如き場合には、法人格を否認すべきであるとする山世志商会事件・最判昭44.2.27民集23.2.511を参照し、株式会社において、法人格が全くの形骸にすぎないというためには、単に当該会社の業務に対し他の会社または株主らが、株主たる権利を行使し、利用することにより、当該会社に対して支配を及ぼしているというのみでは足りず、当該会社の業務執行、財産管理、会計区分等の実態を総合考慮して、法人としての実態が形骸にすぎないかどうかを判断すべきであるとしました。

 そして、A社は、実質的には設立の当初から事業の執行及び財産管理、人事その他内部的及び外部的な業務執行の主要なものについて、極めて制限された範囲内でしか独自の決定権限を与えられておらず、その実態は、グループの中核企業である被告会社の一事業部門と何ら変わるところがなかったとしました。

 また、被告代表者は、グループの社主として、A社を直接自己の意のままに自由に支配・操作して事業活動を継続しており、A社の株式会社としての実体は、もはや形骸化していたとして、A社の法人格は否認されるとしました。

 以上より、判決は、被告会社及び被告代表者は、いずれもA社と同一視されるとして、A社の未払賃金及び退職金について、連帯して責任を負うとしました。

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