Case111 退職金を減額する労働協約の非組合員への一般的拘束力を否定した最高裁判例・朝日火災海上保険(髙田)事件・最判平8.3.26労判691.16【百選10版92】

(事案の概要)

 A社には、鉄道保険部職員で組織されたA労働組合がありました。被告会社がA社の鉄道保険業務を引き継ぐことになり、原告労働者を含むA社鉄道保険部職員は、新たに被告会社と雇用契約を締結しました。被告会社にはB労働組合があり、A組合とB組合は統合して新たな労働組合(本件組合)が結成されました。

 被告会社と本件組合は、A社出身労働者とその他の労働者の労働条件を順次統一していきましたが、定年年齢(A社出身労働者は満63歳、その他の労働者は満55歳)について合意に至っていませんでした。

 その後、退職金の高額化が一因となり被告会社の経営が悪化したこともあり、被告会社と本件組合は定年について本件労働協約を締結しました。

 労働組合法17条は、「同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは……他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。」としています(一般的拘束力)。

 これにより、本件組合の非対象者である原告は、本件労働協約締結時に既に定年を迎え、低賃金で定年後再雇用された扱いとなり、退職金の支給率も引き下げられました。

 本件は、原告が本件労働協約の効力は自身に及ばないとして、差額賃金や差額退職金の支払を求めたものです。

(判決の要旨)

 最高裁は、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないとしました。

 そのうえで、本件労働協約締結の経緯にはそれなりの合理的な理由があったとしながら、本件労働協約の内容はその効力日に原告が定年退職となり退職金まで減額されるものであり、原告が専ら大きな不利益のみを受ける立場であること、そのような減額は、原告が具体的に取得した退職金請求権を、その意思に反して、組合が処分ないし変更するのとほとんど等しい結果になること、原告が組合員の範囲から除外されていたことから、原告の退職金を減額することは著しく不合理であって、その限りにおいて、本件労働協約の効力は原告に及ばないとし、差額退職金の支払を認めました。

 一方で、定年及び再雇用としての賃金減額の効力は有効に原告に及ぶとしました。

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