Case118 役職手当は一種の職能資格手当であり、客観的合理的理由を欠く役職者の降格は人事権の濫用として無効であるとした事案・光輪モータース(賃金減額)事件・東京地判平18.8.30労判929.51

(事案の概要)

 原告ら労働者20名は、労働組合を結成した後に、被告会社から各種手当の減額を受けたため、各種手当は実質的に基本給であり、これを一方的に減額することは出来ないと主張し、また組合員に対する手当の減額は不当労働行為に該当するとして、会社に対して減額された賃金の支払いを求めました。

 本件では、特に⑴店長フロア長手当、⑵役職手当、⑶責任手当の減額の有効性が争点となりました。

 ⑴店長フロア長手当は、組合結成前から存在していた旧就業規則には定めがなく事実上支払われていた手当でしたが、原則として店長、フロア長等に指名された者に対して支給されていました。

 ⑵役職手当は、責任の重い管理的地位にある者に対し支給するものとして旧就業規則に定めがあるものの、役職の基準や金額については何の定めもなく、実際上、部長、課長、係長、主任等の役職名の下に一定額が支給されていましたが、同じ役職であっても手当の額が人によって異なっていました。会社は、就業規則を改正し、資格基準及び金額を統一し、これにより役職手当が減額になる者に対しては、役職調整手当の名目で差額分を支給することとしました。

 ⑶責任手当は、旧就業規則に定めのない手当であり、基本給や役職手当が少ない者に概ね1万円から3万円の範囲で支給されていました。過去の運用では、責任手当は、増額されることはあっても、減額される例はありませんでした。

(判決の要旨)

⑴ 店長フロア長手当

 判決は、店長フロア長手当は、店長・フロア長として指名され、その職責にある者に限って支給される手当であり、店長・フロア長の降職は頻繁に行われていたとし、これまで店長フロア長手当を受給していたことのみを根拠としてこれらの手当を請求することはできないとしました。

⑵ 役職手当

 判決は、役職手当は、一定の役職にある者に対して支給される手当であり、役職から降格された場合には支給されなくなる性質のものであるとしました。

しかし、役職手当は一種の職能資格手当であるとし、役職者の降格にはその者の職能評価において降格を相当とする客観的合理的理由があることを要し、これを欠く降格は人事権の濫用として効力が否定される結果、降格を理由とする役職手当の減額は認められないとし、差額賃金の支払いを認めました。

⑶ 責任手当

 判決は、責任手当は、低額な基本給や役職手当を補完するために支給された色彩が強く、責任手当の支給が賃金に関する労働条件として合意されていたとして、客観的に合理的な理由なく会社が一方的にこれを不支給とすることは許されないとし、差額賃金の支払いを認めました。

⑷ 不当労働行為該当性

 判決は、会社が処遇において組合員であることを理由に不利益取扱いをしたものと認めることは出来ないとし、不当労働行為該当性を否定しました。

※控訴

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