Case173 労働者が精神疾患を申告しなかったことを理由とする過失相殺を否定した最高裁判例・東芝(うつ病・解雇)事件・最判平26.3.24労判1094.22

(事案の概要)

 原告労働者は、被告会社において初めてプロジェクトのリーダーを任されてから長時間労働を余儀なくされていました。

 原告は、労働時間が一定の時間を超えた従業員につき実施される時間外超過者健康診断を受診し、頭痛、めまい、不眠などの症状を訴えましたが、産業医は、特段の就労制限を要しないと判断しました。

 その後も、会社は、原告が業務軽減を申し出ているにもかかわらず、原告に追加で業務を担当させるなどしました。

 原告は、うつ病にり患し、会社から休職命令を受け、職場復帰しなかったため解雇されました。

 本件は、原告が会社に対して、うつ病の業務起因性及び本件解雇の無効を主張して、解雇日以降の賃金や損害賠償等を請求した事案です。

 なお、労災不支給決定に対する別件取消訴訟において、うつ病の業務起因性が認められています。

(判決の要旨)

1審判決

 1審は、うつ病の業務起因性を認め本件解雇を無効とし、また会社の安全配慮義務違反を認め、本件解雇以降の賃金や慰謝料200万円等の支払いを認めました。

控訴審判決

 控訴審も、本件解雇を無効とし、会社の安全配慮義務違反を認め、慰謝料320万円等の支払いを認めました。

 もっとも、原告が通院や病名、薬剤の処方等に関する情報を会社に申告しなかったこと等を考慮すると、過失相殺に関する民法418条または722条2項を適用ないし類推適用し、損害額を2割減額すべきとしました。

上告審判決

 最高裁は、通院や病名等などの精神的健康に関する情報は、労働者にとって、自己のプライバシーに属する情報であり、使用者は、必ずしも労働者からの申告がなくても、その健康にかかわる労働環境等に十分な注意を払うべき安全配慮義務違反を負っているところ、労働者にとって過重な業務が続くなかでその体調の悪化が看取される場合には、精神的健康に関する情報については労働者本人からの積極的な申告が期待し難いことを前提とした上で、必要に応じてその業務を軽減するなどの労働者の心身の健康への配慮に努める必要があるとしました。

 そして、原告が体調不良を訴え業務軽減を申し出ていたこと等から会社は原告の業務を軽減するなどの措置を執ることが可能であったとし、過失相殺は許されないとして控訴審判決を一部破棄し高裁に差し戻しました。

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