Case231 プライベートで元交際相手に傷害を負わせたとして刑事裁判を受けていた労働者に対する起訴休職処分が無効とされた事案・全日本空輸事件・東京地判平11.2.15労判760.46【百選10版64】
(事案の概要)
被告航空会社に機長として雇用される原告労働者は、平成8年4月、プライベートで元交際相手(会社の元客室乗務員)に傷害を負わせたとして逮捕され、罰金10万円の略式命令を受けて釈放されました。原告は、同年5月、無罪を主張して正式裁判の請求をし、平成9年11月に無罪判決が出されました。
会社は、平成8年5月、就業規則上の休職事由(業務以外の事由で刑事上の訴追を受けたとき)により原告を無給の休職に付し(本件起訴休職)、無罪判決後に復職させました。
本件は、原告が本件起訴休職の無効を主張し、休職期間中の賃金の支払いを求めた事案です。
(判決の要旨)
判決は、起訴休職制度の趣旨から、起訴休職処分が許容されるためには、職務の性質、公訴事実の内容、身柄拘束の有無など諸般の事情に照らし、起訴された従業員が引き続き就労することにより、会社の対外的信用が失墜し、又は職場秩序の維持に障害が生ずるおそれがあるか、あるいは当該従業員の就労の継続的な給付や企業活動の円滑な遂行に障害が生ずるおそれがある場合でなければならず、また、休職によって被る従業員の不利益の程度が、起訴の対象となった事実が確定的に認められた場合に行われる可能性のある懲戒処分の内容と比較して明らかに均衡を欠くものでないことを要するとしました。
そのうえで、原告は本件起訴休職の時点で身柄拘束されておらず、労務を継続的に給付するにあたっての障害がないこと、安全運行に影響を与える可能性も認められないこと、刑事事件も私的な男女関係のもつれから生じた偶発的なトラブルであり、会社の対外的信用を失墜し、又は職場秩序の維持に障害を生じるおそれもないこと、仮に有罪となった場合に可能な懲戒処分と比べても無給の休職は著しく均衡を欠くこと、そもそも原告が正式裁判を求めなければ略式命令で終わっていたなどから、本件起訴休職を無効として賃金請求を認めました。
※確定