Case246 適応障害による休職後トラウマを訴え強く異動を求める職員を漫然と同じ職場で働かせ続けたことが国賠法上違法とされた事案・千代田区事件・東京高判令4.5.20

(事案の概要)

 千代田区の福祉職員である原告労働者(男性)は、平成24年4月からA保育園で保育士として勤務するよう命じられましたが(本件異動)、すぐに適応障害を発症し約1年間欠勤・休職しました。原告は、A保育園に復職したのち、平成25年4月から、平成30年8月に異動するまでA保育園の用務業務を担当するよう命じられていました(本件命令)。

 原告は、過去に区の保育士として勤務した際、男性用の更衣室がないなどの劣悪な設備、圧倒的に多数を占める女性職員の陰口等に悩まされ、保育士として勤務することは不可能であったにもかかわらず本件異動がされたと主張していました。

 また、原告は、復職後、かつての保育園でのトラウマを訴え強く異動を希望していました。

 本件は、原告が千代田区に対して、職場環境に配慮せず不当な動機・目的をもって本件異動を命じ、原告の本来的職務でない用務を命じる本件命令をし、A保育園に約5年間留め置いたなどの一連の行為が違法であるとして国家賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、本件異動及び本件命令に違法性はないとしました。

 もっとも、原告の病名が適応障害であり、原告において過去に受けたパワー・ハラスメントを思い出したことが原因であると述べていることからすれば、復帰の時点で健康上の問題が完全に解消し、何らの配慮も要しない状態になったものと捉えるべきではなく、適応障害が再燃しないよう復帰後の心身の状態について留意すべきであって、これを怠ることは違法な公権力の行使に当たるとしました。

 そして、原告の心身の状況に対して必要な配慮をしたり、正当な事由があったりするわけでないのに、漫然と同一の職場への勤務を続けさせた千代田区の人事上の措置は違法であるとして、慰謝料50万円を認めました。

Follow me!