Case286 パワハラ・セクハラによるうつ病発症後の配置転換等についても国の安全配慮義務違反が認められた事案・国・高松刑務所事件・高松高判令4.8.30

(事案の概要)

 新人刑務官として勤務していた原告労働者(女性)は、先輩職員Aに小部屋に呼び出され「私仕事せん奴大嫌いやけん。お前は刑務官の服着たお人形さんや。今は新人やけん許されとるけど、ちゃんとやらんかったら見捨てられるぞ。」などと約30~40分にわたり罵倒されるなどしました(本件パワハラ行為)。

 また、原告は、刑務所柔道部の忘年会の二次会の帰り道に、B主席から、原告の手を握りながら歩き、原告を抱きしめ「今、こんな気持ちになったのは初めてだ。」と述べて頬にキスするなどの行為を受けました(本件セクハラ行為)。

 原告は、これらの行為によりうつ病を発症し、このことを国に申告しました。そうしたところ、国は原告に仕事をあまり与えないようにしたり、原告を転々と配置転換しました。

 これにより、原告は刑務所から邪魔者扱いされ、見放されたとの思いを強め、自殺未遂をするに至りました。

 本件は、原告が、国に対して、本件パワハラ行為、本件セクハラ行為及びうつ病発症後の安全配慮義務違反などを主張し、国賠法又は債務不履行に基づき損害賠償請求した事案です。

(判決の要旨)

 判決は、本件パワハラ行為につき、Aの叱責方法は、具体的に原告の仕事の問題点を指摘して改善を求めるという指導ではなく、男性職員が仕事をしない女性職員を揶揄する「お人形さん」との言葉も用いて、一方的に原告を侮辱し、責め立てるもので、時間的にも約30~40分という常軌を逸した時間であり、指導の域を超えたパワハラ行為あるいはいじめに当たり、違法であるとし国の賠償責任を認めました。

 また、本件セクハラ行為について、明らかなセクハラ行為であるとし、職員の親睦を図る目的で開催された忘年会の二次会の帰途に行われたもので、職務の執行に密接な関連を有する行為として国の賠償責任を認めました。

 さらに、うつ病にり患している原告に対し、仕事をあまり与えないようにして疎外感を与えたり、短期間で職場を転々と異動させたり、原告が反対しているにもかかわらず、転居を伴う異動であり、法務教官というこれまでの刑務所職員と大きく環境が変わる職場に異動させた行為は、職員の心理的負担をより増大させる行為であったとして、職場環境整備義務という安全配慮義務に違反したものであるとし、慰謝料150万円を認めました。

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