Case288 マンション管理員についてマスク不着用及び通勤手当の不正受給を理由とする解雇が無効とされた事案・近鉄住宅管理事件・大阪地判令4.12.5労判1283.13
(事案の概要)
原告労働者は、パートとして被告会社の管理する本件マンションで管理員をしていました。
原告は、業務中に日常的にマスクを着用しておらず、マンション住民から1件の苦情がありました。
会社は、①コロナ感染対策のためのマスク着用という指示に従わず、居住者に不安を抱かせる行為を行ったこと、②住所変更の届出を怠り、通勤手当を不正受給したこと、を理由に原告を解雇しました。
本件は、原告が解雇の無効等を理由として、会社に対して雇用契約上の地位確認等を求めた事案です。
会社は、本件解雇以前に口頭で合意退職が成立していたとも主張しました。
(判決の要旨)
1 合意退職の有無
判決は、原告が退職の意思表示をした客観的証拠はないとしました。
また、仮に原告が退職する意向を示したと被告が認識し得る発言をしたことがあったとしても、労働者にとって退職の意思表示をするということは生活に重大な影響を及ぼすものであることからすれば、口頭での発言をもって、直ちに、確定的な退職の意思表示であると評価するかについては慎重な検討が必要となるとしました。
2 解雇の有効性
⑴ マスク不着用について
判決は、原告が過去にも会社から同様の行為について注意を受けていたというような事情はうかがわれないこと、現実に会社に寄せられた苦情は1件にとどまっていること、原告の行為が原因となって、本件マンションの管理に係る契約が解約されるというような事態は生じていないこと、原告が新型コロナウイルスに感染したことで本件マンションの住民あるいは会社内部においてクラスターが発生したというような事態もうかがわれないことからすれば、原告の行動が規律違反に当たるとはいえるものの、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいえないとしました。
⑵ 通勤手当の不正受給について
判決は、原告が当初から実態と異なる通勤経路を申告していたものではなく、勤務期間の途中で転居したことで通勤経路が変更になったものであること、原告が殊更に転居の事実を秘して差額の受給を意図していたことをうかがわせる証拠はないこと、通勤手当の差額が1か月当たり3000円未満であり合計額も3万円弱にとどまっていること、原告が遡って通勤手当を清算することを承諾していることなどから、通勤手当に関する原告の行動が規律違反に当たるとはいえるものの、原告を解雇することが社会通念上相当であるとまではいえないとし、本件解雇を無効としました。
※確定